第5話 12月11日14時30分


 休憩を入れつつ、二時間ほど歩いた。

 林道は、何年も前に廃道になっていたらしく、あちこちで道が崩れ、思ったより距離が稼げない。樹々で視界も悪い。

 これじゃ、史郎を見つけることは無理だな……。

 美佐に、出直すことを提案しようとしたとき、林道の横にひらけた空間が現れた。

 雑木が点在しているが、ほどよい空き地になっている。テントを張るには、おあつらえ向きの場所であった。

 俺たちは空地へと踏み入った。地面が湿っていて柔らかい。

 「和泉さん」

 美佐が俺を呼んだ。

 近寄ると、美佐の前に落ち葉が堆積した大きな山があった。

 誰かが掃き集めたのかと思ったが、すぐにそうではないと気づいた。

 落ち葉の下に、緑色の布が覗いている部分がある。これは、潰れたテントの上に、落ち葉が堆積してできた山なのだ。

 放置されていたテントが風雨で倒れ、そこに落ち葉が降り積もったのであろう。


 だが、テントの布地だけにしては、盛り上がりが大きい。

 この下に……。

 最悪の予想をしたとき、美佐が地面に膝を着き、落ち葉を押しのけ始めた。

 テントの布地が現れる。

 「替わるよ」

 俺は美佐を後ろに下げると、落ち葉を掻き分けながらテントの出入り口を探した。

 すぐに見つかった。

 そこに手を掛けると、力を込めて引き剥がす。

 腐葉土となった落ち葉が崩れ落ちていく。

 布地の下から現れたのはリュックであった。さらにキャンプマットや寝袋、携帯用コンロ……。

 遺体は無かった。


 俺が安堵した時、手を伸ばした美佐が、寝袋の横から黒い塊を引っ張り出した。

 ダウンジャケットである。すでに湿気で腐り、膨らみは無い。

 「これ、あたしが史郎さんにプレゼントしたダウンジャケット」

 美佐がつぶやいた。

 これで、史郎がここでキャンプをしていたことは、ほぼ確定となった。

 しかし、肝心の史郎の姿が無い。

 動画サイトの映像では、史郎は何かに追われるように、夜の森を走っていた。

 何かに襲われ、テントから逃げ出し、森の中で……と言う可能性の方が高い。

 美佐も、そう考えたのか、テントの残骸から離れ、周囲を見回しながら歩き始めた。

 そして、「あっ」と声をあげた。

 何を見つけたのか、不安定な斜面を急いで下り始める。

 「美佐ちゃん!」

 俺は後を追った。


 美穂は立ち止まっていた。

 立ち止まっている位置から3mほど先に、ブナの樹がある。

 そのブナの樹の根元に、何かが転がっていた。

 さっきと同じように落ち葉が被さり、全体は見えない。


 それでも俺には、それが靴とズボンに見えた……。

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