第6話 永恭のこと
綾野が
わがままを通す永恭と世間を取り持ちながら絵を習う。早く絵を習うことに主眼をおきたいと思いながら永恭のために走り回る。
そういう永恭との暮らしぶりに綾野が慣れるのは早かった。それも
今は幕府が出した
「あかんな、手ぇつけられへん。父上の具合が気になる。綾野、注文の絵も納めるのは
「わかりました。ご依頼の方々の所を回ってきます。帰りになにか
「うん、あんまり負担にならんのを頼むわ」
病ゆえに覚悟はしていただろうが、ふたりの声は途絶えた。織乃にはことに堪えたらしく日に日に痩せていく。それに寄り添う永恭もまた言葉少なにひと言ふた言ぽつぽつと落とすだけだった。
ようやく
「母上、こうして拝んどったら父上が見守ってくれとるようで安心しますね」
「そうねえ」
「これから毎日、一緒に手を合わせましょ。元気出さんと父上に叱られてしまいますよ」
永恭が言うと
母親が落ち着くのを待っていたのだろう。それからは以前にもまして絵の依頼を受けている。それが少し痛々しく思えて綾野は遠慮がちに声をかけた。
「永恭様、そのようにたくさん依頼を受けられて大丈夫ですか」
永恭が、うん、と綾野にうなずき返す。
「心配せんでええ。ちょっと考えとることがあるんや。しばらく
「なにかされるおつもりなんですか」
「まぁだ言えへんなあ。今はとにかく描いてたいわ」
片方だけ口の端を上げ、それだけを言った永恭がまた絵に向かう。
描くことで心が落ち着くならそれはいいことだろう。だが永恭は自分を
「体のことも考えてください。ちゃんと寝て、食べてくださいね」
「そこは綾野が見といてくれるんやろ」
これはまた倒れないように気をつけなくてはならない。綾野は小さく
それでも画室に広げた絵を描き続ける永恭の姿からは、なにかが起こりそうな予感がしていた。
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