欲まみれのご婦人たち

                 1

「……以上です。誠に勝手ながら、貴女たちを召喚させて頂きました……我が王国、いえ、このパッローナの平穏を取り戻す為に、このエレメンタルストライカーに搭乗し、帝国と戦って頂きたい……どうぞお願いいたします!」

 大臣がその禿頭を四人の女性に向かって恭しく下げる。

「よろしくてよ!」

「ええっ⁉」

 金髪縦ロールの女性の即答ぶりに大臣は驚いた。

「? 何をそんなに驚くことが?」

「い、いや、この中では一番駄々をこねそうだなと思っておりましたので……」

「何故にしてそうお思いに?」

「派手なドレス……金髪縦ロール……極め付けは一人称がわたくし……」

「偏見が酷いですわね⁉」

「失礼いたしました……」

 大臣が再び頭を下げる。

「ノブレス・オブリージュ……」

「はい?」

「高貴な地位にいる者にはそれなりの義務が伴うということですわ」

 金髪縦ロールの女性が髪を優雅にかき上げてみせる。

「ふむ、世界は異なれど、人の上に立つ者の在り方というものは変わらんか……」

 国王が白い顎髭をさすりながら呟く。

「そういうことですわ、白髭のおじさま!」

「お、おじさま⁉ 儂は国王なのだが……」

 国王が面食らう。

「あらためて……その帝国とやらと戦えばよろしいのですわね?」

「あ、ああ……」

「ふむ……わたくしたちにどうぞお任せあれ!」

「き、危険を伴うぞ?」

「ご心配には及びません。ギロチンの刑からタイミング良く救ってくださった御礼はしっかりと返さなくてはいけませんわ」

「ギロチンの刑?」

「あ、い、いえ……こちらの話ですわ! お気になさらず!」

「はあ……」

「そ、それでは早速参りましょう!」

「待てよ、てめえ……」

「はい?」

 金髪縦ロールに赤髪のショートボブが迫る。綺麗なドレスに対し、所々破れた衣服、細身の体つきに対し、がっしりとした体格。なにからなにまで対照的な二人である。

「はい?じゃねえよ、何をてめえが勝手に仕切ってやがんだ? ああん⁉」

「マリー……」

「あ?」

「てめえではなくて、わたくしはマリーと申します。貴女様のお名前は?」

「……ラ」

「え?」

 マリーが耳を傾ける。

「……セイラだよ!」

「セイラさん! まあ、とっても可愛らしいお名前ですこと!」

「う、うるせえな!」

 セイラと名乗った女性が顔を赤くする。

「セイラさん、今のお話は聞いたでしょう? この世界の方々はとても困っていらっしゃいます。皆様の為に力を尽くすべきです。それが召喚?されたわたくしたちに課せられた大事な責務だと思いますわ」

「召喚とかわけわかんねえし、責務とかそういう堅っ苦しいのは真っ平ごめんだ。オレは地中海の海賊として自由気ままに暴れ回ってきたんだぜ?」

「……この神殿は大変立派な建物ですわね」

 マリーがセイラに囁く。

「あん?」

「ここから推測すると、この王国というのはなかなかの規模の国家なのでは?」

「!」

「御礼もそれなりのものが期待出来るでしょうね」

「……ひょ、ひょっとして、酒池肉林ってやつか⁉」

「女性がそういう言葉を使うのは初めて聞きましたが……大いにあり得るでしょうね」

 マリーが頷く。セイラが笑顔を浮かべて国王たちの方を見て告げる。

「へへっ、このセイラ様が力を貸してやるぜ! ありがたく思いな!」

「えっと……」

「……ヒルデだ」

 腕を組んで壁に寄りかかっていた銀髪の短髪の女性がマリーの疑問に答える。

「……見たところ、傭兵さんですわね?」

「ああ、金で動く。信用出来ないだろう?」

「いいえ、かえって信頼出来るというものですわ」

「‼」

 ヒルデと名乗った女性の整えられた眉がピクっと動く。

「国を救う偉業を成すとならば、報酬はきっとたいへんなものでしょうね……」

 マリーはわざとらしく両手を広げてみせる。

「ふむ、金はいくらあっても困らんからな……」

「ええ」

「分かった、自分の力を貸そう……」

 ヒルデは壁から姿勢をただし、国王たちに告げる。

「お嬢さんは……」

「誰がお嬢さんよ! 私はメリッサ!」

 とんがり帽子を被った女子がムッとした口調でマリーに応える。

「メリッサさん、この世界にはモンスターがいるそうですわよ?」

「ええ、それに強い魔力の流れも感じるわ……」

「なかなか興味深いのではありませんこと?」

「ふん、異世界に来たのですもの、好奇心を刺激されない方がどうかしているわ」

「それでは……」

「ええ、このメリッサが手助けしてあげるわ! ありがたく思いなさい!」

 メリッサが両手を腰に当てて、胸を張って、国王たちに向かって声を上げる。

「きっと良いベッドも用意してくださいますわ」

「良いベッド?」

 マリーの言葉にメリッサが首を傾げる。マリーが微笑む。

「寝る子は育つと言いますし……」

「こ、子ども扱いしないでよ!」

「これは失礼いたしましたわ……」

 マリーが頭を下げる。

「まったく……でも、ふかふかのベッドは魅力的ね……豪華な寝室を所望するわ!」

「なっ……」

 メリッサの遠慮の無い発言に国王が戸惑う。

「性欲、食欲、金銭欲、知識欲、睡眠欲……それに名誉欲ですか、やれやれ、欲求まみれのご婦人たちですな……」

 国王の側に控えていた大臣が呆れたように首を左右に振る。

「だ、大臣……」

「大事な召喚者といえども、最初が大事。ここはビシっと言ってやります……」

「た、頼むぞ……」

 大臣があらためて四人の前にゆっくりと進み出る。

「そなたたちの望み……叶えてやる! よって、帝国の軍勢を直ちに追い払え!」

「おおいっ⁉ 越権行為⁉」

 勝手に命令を出す大臣に対して、国王が大いに困惑する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る