第4話
カロロース諸島にたどり着くまでには4時間を費やした。
カルヴァルは艦内を回り、一人一人の手を取り挨拶を交わしてゆく、宮中儀礼の作法を身に着けた老齢の士官や下士官が遠慮をしても無理やりに握って感謝を示した。数多くの手と触れ合い、そして言葉を交わす。二言三言であっても、幼い我が身であってもそれが彼らの力になると信じている。それが王宮に連なるものの使命であることも幼いながら十二分に理解している。
やがて、カリッツアーの召集で食堂に主だったものが集まり作戦会議が開かれた。
丸い円のサンゴ礁の中心に浮かぶカロロース島の状況は無線を通じて刻々と判明しつつある。噴火による噴石で広範囲に被害が及び、怪我人なども多数、電力を喪失し空港の滑走路にはかなりの火山弾が落ちて復旧は絶望的、海軍基地も被害を受けて艦艇の損傷と大小さまざまな軽石に囲まれて目下のところ行動不能、手漕ぎカッターで沖合まで何とか漕ぎ出し計測をしてくれたが、海面下4メートルの辺りまで軽石が積もり重なってサンゴ礁全体を埋め尽くしているとの報告が上がってきた。
「侵入経路については大型客船の航行ルートを用います。しかしながら港湾施設は被害状況がつかめておりません。港湾施設の手前にある海軍基地の浮桟橋は無事ということが判明しておりますので、以下の作戦で支援物資と支援人員を上陸させることといたしました」
円形の珊瑚礁の一角は開発の際に深く掘り下げられている。峡谷のようになったそこには波浪防止のために大型の閘門が設置されており、電力が不足しているため閘門の稼働は難しいが、作りは波を入れぬための閘門のため完全に堰き止めるものではなく5メートル下には艦が余裕に抜けることのできる空洞が広がっている。
「慎重を要する操艦になりますが、この艦でしたらなんとかなるでしょう、桟橋は自力での航行能力はないと思いますが、その辺りはどうされるのですか?」
「艦長には悪いが、艦体にウインチ数機を設置して引き寄せることになる。海軍基地側にもウインチがあり、どうやらバッテリーで一往復程度は可能であるとの返事もあった。艦よりケーブルを伸ばし、海軍基地へと接続したのち、しばらくは電力供給なども行う」
「なるほど」
「第一は救助隊を送り込む、折り返して支援物資だ。その後の対応は同型潜水艦を駆使してプッシュにて送ってもらう手筈になっている。取り残されることはないから大丈夫だ」
「それなら何とか展開できそうですね」
消防等の救助隊が安心したようにため息を漏らした。連れて行かれるだけにされてしまっては困るという思いがありありと見える。
後方支援あってこその前線救助なのだから。
「火山活動はどうなの?皆さんが被害を受けることはない?」
「現在は小康状態のようです、殿下」
「ならいいわ、詳しいことは皆で詰めてね、私は端っこで聞いているわ」
アレハンドラに入れて貰った紅茶を飲みながら、部屋の隅で耳をそばだてるようにしてカルヴァルはことの成り行きを見守った。途中、何回か言い合いはあったものの、最後の最後になってカルヴァルへと再び全員の視線が向けられた。
「なに?」
「殿下、救助物資の搬出後に何と言いますか……船倉を数段に仕切った上で重症者の治療を行いたいと思うのですが……」
「私は構わないわ」
「ありがとうございます。その後死亡する可能性もございます、その場合は……」
「艦外に出すことは駄目、ラスタリア女王は戦った者を決して見捨てなかった」
「畏まりました」
この一言で全員の目の色が変わる。
王女に対しての絶対の信頼感と言っても良いものが生まれた瞬間であった。
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