イエスマン
幾多心
1話目
此処はとある喫茶店。古き良き店で日向子の見知った客も多い。何せ日向子の彼氏、
机に突っ伏した橘を見据える。橘は浮気をしていた。まだ出会って一ヶ月、付き合って二週間。最短距離で裏切り行為をした橘に、日向子は悲しい素振りを見せた。
「何で浮気なんてしたの?」
「ごめん、お酒の勢いで、つい……。正直、全く覚えてなくて……。本当にごめん。でも、橙山が一番なことには変わりないから……」
情けなく啜り泣く橘に、日向子は溜め息を吐く。
日向子にとって橘は取るに足らない人間なのかもしれない。出会ってすぐ意気投合し、告白された流れで交際を始めた。全てが日向子にとって流れ作業だった。
デートにいかないか、キスさせてくれないか、付き合ってくれないか。全てをイエスで答えた。
「本当に反省してる……。もう絶対に浮気しないから、お願い。別れるなんて言わないで?」
大きな目に涙を浮かべ、切望しているように見える。それが本音か本音ではないかなんて日向子には分からなかった。
橘は大学入学当初から異性との絡みが多い方だった。イツメンと呼ばれる男女グループと頻繁に飲みに出掛け、所謂ザ・大学生なノリを誰よりも楽しんでいた。そして、そのグループには日向子も含まれ、しまいには浮気相手、その浮気を日向子にリークした人もいるのだ。
日向子は自分の判断でグループの存続が決まるような気がしてならなかった。
「……もうしない?」
「え?」
あらゆる感情を抑えて橘に問うた。
「浮気、もうしない?」
「し、ない。絶対。絶対しない」
間髪入れず答える橘。日向子はとにかくこの場を早く終わらせたかった。橘を信じたわけでもなく、ただ日向子の中で、今この状態にあるという面倒が勝った。
「じゃあもういい」と投げやりに席を立ち、勘定を済ませて店を出た。後ろを一度一瞥したが、橘が追いかけてくる様子は見られない。
ただ日向子に薄暗いもやだけが霧がかった。
イエスマン 幾多心 @lliicv9
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