第5話戦場の開幕と運命の矢
灰色の朝焼けが広がる城の一室、サラはひとり窓辺に佇んでいた。手には祈りの珠が握られ、その目は遥か彼方の城門を捉えている。そこにはアルフレッドが出陣していく姿があった。
彼女は感じたことのない感情に胸を締め付けられていた。戦地へ赴く人を見送る不安。帰還を祈る希望。そして、いつの間にか自分の中に芽生えた、彼への特別な思い。
「無事に帰ってきて……」
その囁きは、朝霧に溶けて消えていく。
パレディア平原の夜明け。大地を埋め尽くす兵士たちの陣営には重い空気が漂っていた。
副団長アルフレッドは、紺碧の空を見上げながら一筋の溜息を漏らす。戦場に散る運命を背負う者たち。ここにいる兵士たちの中で、いったいどれほどが再び故郷へ戻れるのか。
馬蹄の音が背後から近づいてきた。振り返ると、白虎騎士団副団長のロレインが馬上から軽口を叩く。
「どうした、怖気づいたか?」
「お前がそんな気遣いをするとはな。らしくない」
「今夜、酒を酌み交わせる保証なんてないからな。皮肉くらい許せ」
さらにテントには、久しく会っていなかった旧友たちが訪ねてきた。地方遠征から戻ったオーウェンと、陽気な笑みを浮かべるペアレスだ。
「アルフレッド、久しぶりだな!」
「おい、あの噂、やっぱり本当なのか?」
ペアレスがニヤつきながら問いかける。
「何の話だ?」
「宮廷の連中が騒いでたぞ。あの"アルフレッド様"が、女性を連れてるってな!」
「違う、その子は捕虜だ。守らざるを得ない状況で――」
アルフレッドは必死に否定するが、二人の笑いは止まらない。
そんなひとときも束の間。戦いの合図が鳴り響き、三人は固い握手を交わして別れた。
平原の中央では、ミケア軍の将軍ホルコーンが指揮を執っていた。彼は槍の達人として名高く、厳格な信仰のもと聖女奪還を使命として燃えていた。
だが、視界に入った奇妙な光景が彼を惑わせる。処刑台のような木造の台座が建てられ、その上にサラと特徴が一致する女性が拘束されていた。
「レグネッセスの卑劣な手段か!」
ホルコーンは叫び、救出部隊を送り込む。だが、それは白虎騎士団の副団長ロレインが仕掛けた罠だった。
「食いついたな」
ロレインは木陰から冷笑を浮かべ、攻撃の合図を出す。伏兵が森の中から現れ、救出部隊を包囲した。
「隊長!囲まれています!」
「ここまでだ。お前は生け捕りにしてやる」
ロレインの策略は成功し、ミケア軍は混乱に陥った。
その頃、アルフレッドは右翼の騎馬隊に加わり、敵本陣への突撃の準備を整えていた。隊を率いるのは美しき女性騎士、アイラ。冷静で鋭い指揮能力を持ち、彼女の存在は隊員たちの士気を高めていた。
「隊長、弓兵がこちらを狙っています!」
突如、敵兵がアイラを狙い矢を放つ。アルフレッドはとっさに馬を走らせ、アイラを庇った。
「アルフレッド!」
叫び声とともに彼の胸に一本の矢が深く突き刺さる。
「これは……まだ、終わりじゃない……」
崩れ落ちる彼を見て、隊員たちの怒号が戦場に響いた。
レグネッセス大国物語 クマガラス @kumagarasu3150
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。レグネッセス大国物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます