美人で性格の悪い彼女と、ブサイクで人格者な彼女

おんたけ

第1話


 先日、二人の女性に告白をされた。


 一人は、社内でも人気No. 1の美人。

 もう一人は、あまり目立たない新人社員。正直、あまり可愛くはない。


 僕は、二人から一人を選ばなければならない。


 究極の選択という言葉がある。美人で性悪と、ブサイクで人格者。どちらと添い遂げるかという選択である。


 二人がそれに当てはまるとは思えないけれど、どちらにせよ内面は知っておくべきだ。


 何となくで付き合って失敗するなんて、愚か者のすることだ。


 二人には悪いと思ったけれど、一つ嘘をつくことにした。


「僕は闘病中で、生い先は長くない。それでも、付き合ってくれるか?」


 僕は二人に、そう問いかけた。


 美人は、僕の話を聞くや否や涙を流し、何度も頷いた。

 こんな話をした後だというのに、僕を元気付けようと笑いかけてくれた。

 何より、間髪入れずに頷いてくれたのが嬉しかった。


 ブサイクは、僕の話を聞き終えると、「しばらく時間が欲しい」と言った。数日後、再度「好き」だという旨の告白をされた。

 

 二人の反応から、一人を選ぶ。


 僕は、美人を選んだ。


 性格が最悪なら、僕の言葉に涙を流したりはしないし、何より迷わずに「一緒にいたい」と答えることはできないから。


 それから数年後。僕たちは結婚した。


 結婚してからの生活も至って安泰で、やはりあのときの決断は間違っていなかったのだと思った。


 ある日。彼女は言った。


「あの時はあなたの冗談だったけれど、いつ具合が悪くなるか分からないんだし、保険に入っておいたら?」


 僕は、彼女の助言に従った。


 裕福な方ではなかったから、二人でずっと一緒にいるためにも必要なことだと思った。

 

 生命保険なんてのは、結構高額なんだと知った。

 それでも、「あなたのためだから頑張るわ」と彼女は言った。


 すごく、嬉しかった。


 けれどそれが、僕の抱いた最後の感情と呼べるものだった。

 

「あなたのためなの」


 僕は、消え行く視界の中で微笑む彼女を見た。


 あの時と、同じだ。


 僕の嘘を聞いて、笑いかけてくれたあの時と、同じ。


「あなたのためなの。私のことが好きでたまらない、あなたの望むことなの」


 そうだ。僕は、彼女を愛していた。


 けど。あれ。


 彼女は一度でも、僕に「好き」だと言ってくれただろうか?


 答えは、返ってこないままだった。



◆◇◆◇



 究極の選択という言葉がある。美人で性悪と、ブサイクで人格者。どちらと添い遂げるかという選択である。


 結論から言うと、答えは存在しない。いや正確には、そんなは存在しえない。


 結局、僕は何も分かっていなかった。


 人の一面だけを見て、知った気になっていた。


 本当に性格の悪い人間は、が来るまでその本性を悟らせることはない。


 そして人は、その時が来た時初めて真実に気がつく。


 それを考えだした時には、既に手遅れだ。


 一番の愚か者は、僕だった。















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