第3話

 ――レベルアップしました。

 ――ステータスポイントを5獲得。

 ――ステータスを割り振ってください。



 名前:

 Lv:1    

 力:3  速さ:2  持久力:2  魔力:1  神力:1  

 振り分けポイント:5

 保持技能:

 称号:『はじまり』 


 空中に浮かんでいるかのように、目の前に現れる文字。

 言葉通りに受け取るならば、ステータスを増やす事が出来るのだろう。

 男は試しに、目の前に現れている文字に手を触れる。


 名前:

 Lv:1    

 力:4  速さ:2  持久力:2  魔力:1  神力:1  

 振り分けポイント:4

 保持技能:

 称号:『はじまり』 


 力のステータスが一つ増え、振り分けポイントが一つ減る。

 目の前に現れた文字に干渉する事が出来るようだった。


「これで力が増えたのか? あまり変わった様子はないが……」


 一つ変わった程度では変化は見られないので、今度は全てのポイントを力に割り振る。


 名前:

 Lv:1    

 力:8  速さ:2  持久力:2  魔力:1  神力:1  

 振り分けポイント:0

 保持技能:

 称号:『はじまり』 

 

 力のポイントは8になり、数字だけ見れば倍以上になった。

 男は試しに剣を持つ。


「おぉ」


 手にしたのはぼろく錆びついた、今にも折れそうな剣だがその重さが明らかに違う。

 ステータスの上昇がどれほどの効果があるかは不明だが、少なくとも物を持つ力には変化があるようだった。


「動く骸骨に、ステータスって、まさか本当にここはゲームの世界だっていうのか?」


 男の疑問は、ステータスにもあった。

 ステータスに表示されている名前の欄には、

 そこで気づく。

 男は自分がなんという名前なのかを、思い出せなかった。

 ここではないどこかで、何かをして暮らしていたかはわかる。

 だがそれ以外の、男は自分に関する情報のほとんどが欠落している事に気づいた。


「……いや、今は考えている場合じゃないな。ここから出ないと」


 男は剣を調べる。

 ぼろい錆びついた、切れ味のない剣はクロスボウごと骸骨の頭部を破砕した事で壊れかけている。

 あと一回でも振り下ろせば壊れてしまうだろう。

 それでも他に使えそうなものはないので、これを持って行くしかないだろう。


 男は更に先へ進みだす。

 新たな動く骸骨に出会ったのはそれから間もなくの事だった。

 ただしその骸骨は下半身の骨がなく、上半身だけで男に近づいてきた。

 当然、それに襲われる事無く骸骨の頭を蹴飛ばせばサッカーボールよりも軽く吹き飛んで動かなくなった。


「この骸骨は頭がなければ動けないんだな」


 動く骸骨の理屈は不明だが、その原動力は頭に起因するらしく頭部を失った骸骨は即座に動きを止める。

 ただ骸骨は動いている間は骨と骨が未知の力で繋がっており、それなりの力を入れなければとれる事はない。

 逆に動いていない間であれば、骨同士の繋がりはなくくっついてもいない。


「ゲーム的に動いているだけなのか、別の力が働いているのか」


 男は歩きながら考えを続ける。

 次に出会ったのは、剣を持った骸骨3体だった。

 緩慢な動きながら、同時に3体を捌くのは男も不可能と考え、引きはがしにかかる。

 幸いにも骸骨は動き回っているが、男にはまだ気づいていなかったのでその辺に転がっている石を拾い、骸骨に向かって投げる。

 ステータスの力を上げた影響か、想像よりも速い速度で投擲された石は骸骨の一体に直撃し、あばら骨の一部を破損させる。

 それでも動きに支障はないのか、骸骨は男に向かって動き出した。


「よしっ、やっぱり他の奴とコミュニケーションは取れないみたいだな」


 男に向かってきたのは石が直撃した骸骨一体だけだった。

 十分にひきつけ、男は骸骨に向かって剣を振り下ろす。

 近寄ってきた骸骨は男の動きに反応する間もなく、頭部を剣で砕かれて即座に地面に崩れ落ちる。

 今の一撃で男が持っていた剣も砕けてしまったが、骸骨が持っていた剣を拾って活用する事にした。


「これも何回もは使えないな」


 先ほどと同じく、骸骨の一体を石で引き寄せ、倒す。

 一体一体であれば骸骨に負ける心配はなく、最後の一体は近づいて頭部を砕いた。


 それから更に先へ進むと、途中で下へ通じる道を見つける。

 らせん状に壁沿いに階段が作られており、所々が崩れているが慎重に進めば下に降りる事も出来るだろう。

 前へ進むか、下へ行くか。


 男は少し考えた後、下に降りる道を選んだ。






 5分、10分。

 あるいはそれ以上の時間が過ぎたかもしれない。

 下へ続く階段は狭く、崩れているところも多いがそれでも下へ降っていくも、いつまで経っても底へたどり着くことがない。

 まるで底なしとでもいうかのように覗き込んだ底は暗く光を通さず、すでに上も見えなくなっていた。


「でも腹も減らないし疲れないな」


 不思議な事に、動き続けているというのに肉体的な疲労を男は感じていなかった。

 空腹を感じる事もなく、喉の渇きもない。

 異常な状況には違いないが、今は男にとって都合がよかった。


「どこまで続いているんだこれ」


 肉体的な疲れはなくとも、精神的な疲労が溜まり始めたころ、男は階段の底に光を見た。

 自然と足が早くなる。

 それから間もなく、男は階段の終着点に辿り着いた。


「……これはどうなってるんだ」


 男の目に映る、淡い光を放つ壁。

 それはよく見れば小さな発光するキノコのようだった。

 壁伝いに発光するキノコは生えており、それは土壁の通路に繋がっている。


「塀の下に、洞窟?」


 階段の長さは異常だったが、ここもまた異常。

 しかし今更に戻るわけにもいかず、男は通路を進む。


 ほんの少し歩いた所で、少し開けた場所に出る。

 そこは四方を人工的な壁に覆われており、この場を人の手で作られている事を示唆している。


「地下にこんな場所を作ったのか? なんのために?」


 男はそこに、見覚えのあるものを見つけた。

 男の膝程の高さのある、光を放つ丸い石。

 近づくと石の上に文字が浮かび上がった。


『回帰石』


 最初にいた場所で見つけた石だ。

 以前のように、男の手が石に触れる。

 すると石から光が消えた。


か?」


 各所に存在し、回帰石という如何にもな名前から、男はゲームにありがちな要素を思い浮かべる。

 二度目があるのか不明なので自ら試すわけにもいかないが、何となくそうなんだろうと思った。


「今度はこの先に行けってことか」


 男の視線が来た道の正反対にある、石壁作りの通路に向けられる。

 その先からは、低い獣のような声が響いていた。

 

 

 

 

 

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