第2話 最初のアドバイス
「――好きよ、修次」
「え、なんだって?」
(だからなんで聞き取れてないんだよ……)
翌日の昼休みである。
鈍感主人公っぽいクラスメイト岩永修次と、その幼なじみである桐峰摩耶のランチタイムトークが今日も
席が近いのでいつものことだ。
そしてこれまたいつものように、岩永は摩耶のアプローチに酷い難聴っぷりをお披露目している。
難聴主人公はフィクションだけの存在だと思っていたが、そうでもないらしい。
斗眞が呆れるのは無理もなかった。
「あ、じゃあ俺、生徒会長に呼ばれてるからさ」
「あ、ちょっと!」
その上、こともあろうに岩永は摩耶とのランチを途中で投げ出してしまったのである。
(マジかあいつ……)
斗眞は開いた口が塞がらなかった。
しかも生徒会長と言えば、美人と名高い3年の女子である。
用事があるなら仕方ないのかもしれないが、アプローチする摩耶の好意に気付かないまま別の女子のもとに向かってしまうとは、つくづく摩耶の扱いが雑である。
「はあ……」
摩耶はため息を吐き出していた。
好意を伝えても難聴で跳ね返され、最終的には立ち去られてしまえば、そうなって仕方なしだろう。
「ねえ斗眞くん……斗眞くん的には私の何が悪いと思う?」
やがて迎えた放課後。
いつものように図書委員として摩耶との図書室受付業務を始めていると、そんな風に相談を持ちかけられた。
「えっと……男心アドバイザーの意見が欲しいってこと?」
「ええもちろん……お昼、見ていたでしょう? 相変わらずアピールが功を奏さなくてね……私、何が悪いのかしら」
摩耶は何も悪くない、というのが斗眞の率直な感想だ。
見切りを付けたらどうか、とアドバイスしたくなるが、それはきっと摩耶の求めている答えではない。
前に進むために斗眞を頼っているのだろうから、後ろ向きなアドバイスをしたら怒られる可能性が高い。
斗眞は摩耶に嫌われたくなかった。
だからここは素直に真面目なアドバイスを送っておく。
「僕が思うに……距離感が近すぎるのかと」
「距離感?」
「幼なじみだからこそ、岩永は多分桐峰さんを見慣れすぎててさ……なんというか、完全に身内気分なんだと思う」
「あぁ、そういうことね……確かにそれはありそう」
摩耶は納得していた。
「家が隣で、生まれながらの付き合いみたいなモノだからね」
「ガチの幼なじみなんだな……だったらそのせいで岩永は身内気分で、桐峰さんに異性としての価値を見出してないのかもしれない。飽きてるっていうか」
「酷い話ね」
「ホントだよ……僕だったら絶対飽きないのに」
そう告げてから、マズいと思った。
昨日に続いてまたうっかりと内なる言葉が漏れ出てしまった。
慌てて取り繕おうとする斗眞に対して、
「ふふ、ありがとう……修次はそんなこと言ってくれないから、ちょっと照れちゃうわね」
差し込む西日を後光のように背負いながら、摩耶ははにかんでいた。
斗眞はそれにあてられ、自分も照れ臭くなりながら、やはり岩永にそのまばゆい笑顔は勿体ない、と思ってしまう。
けれど摩耶が岩永を望むなら、そこに野暮な水を差すわけにもいかない。
自分はあくまで傍観者。
その立ち位置を崩しては、きっといけないのだ。
「ところで……修次が私を身内としか見てないんだとしたら、どうしたらいいのかしらね」
「セオリーとしちゃあ……押してダメなら引いてみろ。身近な存在すぎて異性として見られてないんだったら、一旦距離を置いてみたらいい」
「確かにそれが順当な作戦よね。じゃあそれを試してみるわ。アドバイスありがとう、斗眞くん」
「あぁいや……どういたしまして」
「これ、ちょっとしたお礼に受け取って?」
そう言って摩耶が手渡してきたのは、フェルト生地で作られた小さなクマのマスコットであった。
「……これは?」
「私、裁縫が趣味でこういうのをよく作っているの。修次にもあげたりするんだけど、ガキじゃないんだからこんなの要らんし、って返されるのが常だから、斗眞くんも別に要らないなら受け取らなくてい――」
「も、貰うよ!」
「ホントに?」
「ああ……貰うよ。大切にする」
岩永が受け取らない摩耶の優しさを受け取れるなら、喜んで受け取るに決まっている。
だから早速足元に置いてあるリュックの横に飾り付けてみせた。
すると、
「ありがとう……すごく嬉しいわ。その子も報われたわね」
西日を背景に、摩耶が再びはにかんでいた。
摩耶の嬉しそうな表情が見られて、斗眞としても少し報われた気分なのだった。
――――――――――――――――
とりあえず連載する方向でやっていこうと思います。
ただ出来るだけきっちり話を考えたいので、隔日くらいの頻度で(前後することもありつつ)マイペースにやっていく形になるかと。
それでもよければお付き合いくださいませ。
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