クラスに難聴主人公っぽいヤツが居るので、そいつに迫っているヒロインの愚痴を聞いていたら図らずも軽いNTRが進行してる気がする
新原(あらばら)
第1話 契約
「――ねえ修次、好きよ」
「え、なんだって?」
(なんで聞き取れてないんだよ……)
近くの席で繰り広げられているとある男子と女子の会話を聞いて、
その男子と女子というのは、岩永修次と桐峰摩耶の幼なじみコンビである。
平凡な容姿の修次と、眉目秀麗黒髪美少女の摩耶。
その近くの席で、斗眞は盗み聞き中。
と言っても、勝手に会話が聞こえてくるのだからしょうがない。
(桐峰さんは岩永のことが好きっぽい……でも岩永自身は桐峰さんに幼なじみ以上の感情はなさそう、って感じか。そもそも好意に気付いてないのもありそうか……)
摩耶の片想い。
一応アプローチは掛けているようだが、岩永が難聴を発動させてせっかくのアプローチを有耶無耶にしてしまう様子だ。
1年生のときから2人とは同じクラスだが、ずっとそんなコントみたいな状況が続いているので斗眞としてはモヤモヤしている。
(岩永め……桐峰さんに迫られているのに気付かないとは勿体ない)
摩耶は浦善学園でも有数の美少女である。
長い黒髪、スタイル抜群の身体。
成績も優秀で文句の付けようがない。
(……僕だったらほっとかないのに)
一応、斗眞は摩耶との接点を持っている。
互いに図書委員なのだ。
しかし逆に言うとそれ以上の接点はない。
やがて迎えたこの日の放課後も、図書委員の仕事を2人でこなすことになった。
図書室のカウンターで受付業務である。
「最近入った恋愛小説、割と借りられているわね」
「まぁ、恋愛って普遍的な要素だし、いつの時代もウケはいいんだよ」
「なるほどね」
摩耶は暮れなずむ窓の外に視線を向けていた。
5月下旬に差し掛かったので、徐々に日が長くなり始めている。
摩耶の横顔は綺麗で、斗眞は思わず見とれてしまう。
「そういえば、斗眞くんは好きな人って居るの?」
「え……いや、別に居ないけど」
唐突な問いかけに驚きながら首を横に振る。
摩耶のことが気になっているが、気になっているという域を出ない。
たとえ好意を持っていようと、それを摩耶の前でじかに認める勇気はなかった。
「ふーん、そうなのね」
「そう言う桐峰さんは……岩永が好き、で合ってる?」
普段はこんな話題を話したりはしないが、摩耶の方から振ってきた話題なので乗っかって訊いてみた。
実際そうなのか以前から確認したかったのだ。
「はたから見ると、やっぱり分かりやすいかしら?」
摩耶は少し照れ臭そうに応じた。
「一応、そういう感じよ」
「……やっぱり」
岩永に矢印が向いていることを正式に認められてしまった。
斗眞はなんだかなと思った。
「あのさ……こう言っちゃなんだけど、岩永のどこがいいんだ? 桐峰さんのアプローチに全然気付いてない鈍感野郎じゃないかよ」
「そうよね。修次は鈍感だわ。しかもやたらと他の女子とも繋がりがあるのよアイツ。なんなのよもう」
話しているうちに腹が立ってきたのか、摩耶は腕組みしながら頬を膨らませていた。
「幼なじみだし、力になるときはなってくれるヤツだから好きなのだけど、私がどれだけ迫ってものれんに腕押しなのよ」
「見てて分かるよ。僕だったらほっとかないのに」
そう告げてから、あ、と思った。
失言だったかもしれない。
キモがられたらどうしよう、と慌ててしまうが、
「……ありがとう」
予想に反して、摩耶は嬉しそうに微笑んでくれた。
「でもまだ私のアピールが足りないだけかもしれないし、めげずに頑張ってみるわ」
「あ、うん……そっか」
「だから、もしよかったら力になって欲しいのよ」
「え……?」
「男子はこうされたら嬉しい、みたいなアドバイスを時折貰えたら嬉しいの。修次にもっと迫るためにね。言うなれば男心アドバイザーよ。どうかしら?」
(うごご……なんで僕が敵に塩を送るような真似を……)
とはいえ、摩耶が岩永とくっつくのが一番平和なのだと思う。
摩耶自身がそれを望んでいるわけで。
だったら斗眞としては、少しでも摩耶が笑える将来にたどり着いてくれればと思い、
「まぁ、分かったよ……僕でよければアドバイスくらい幾らでも」
と応じたのであった。
「本当に? ありがとう。すごく嬉しいわ」
にこりと微笑む摩耶。
西日に照らされたその姿は綺麗極まりない。
(あぁくそ……岩永には勿体ない)
やはりそう思いつつも、男心アドバイザーになったからには、ひとまず真面目にそれをやらないといけない。
そうでなければ男が廃る。
「えっと、じゃあ……早速何かアドバイスを送った方が?」
「あ、今は大丈夫よ。何か行き詰まることがあったら私の方からお願いするわ」
「あ、うん、分かった……」
そんなこんなで、この放課後は何事もなく終わりつつも、着実に何かが動き始めた気配が、しないでもないのだった。
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※お試し的な投稿です。支持が多ければそのまま続けようと思っています
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