第15話
「じゃあ、はじめ」
一夜はそう言うと、先程よりもフォークで大きくケーキを割り、
口に入れて行く。
それは吸い込まれるようで。
私も慌てて、ケーキを口に運ぶけど。
スポンジやクリームはふわりとしているが、
フルーツがなかなかボリュームがある。
苦戦していると、私よりも先に、一夜はペロリと自分の分のケーキを平らげてしまった。
「真湖ちゃん、ごめんね。
俺は勝てる勝負しかしないんだよね」
「それって…」
ずるい、と思うけど。
ずるくは、ないのか。
一夜が食べるのが早い事を、私が読み違えただけ。
「もし、俺が負けてたら、
俺にどんな言う事を聞かそうと思っていた?」
そう訊かれて、もしかしたら、と期待するように、それを言葉にした。
「1ヶ月前から、私のお父さんが行方不明で。
急に、家に帰って来なくなって。
お父さんの仕事場の人達に聞いても、誰もお父さんの行方を知らなくて」
「で?俺に何しろと?」
「一夜なら、うちのお父さんの事見付けられるんじゃないかって」
そう言うと、こちらは真剣なのに。
一夜は吹き出すように笑う。
「家出した真湖ちゃんの父親を、
うちの組総出で探すの?」
さらに、笑い出す。
「お父さんは家出なんかじゃない!
きっと何かの事件に巻き込まれたの!!」
「なら、俺じゃなく、警察に言えば?
って、もう言ってるか」
一夜の言うように、捜索願いも出している。
だけど、この1ヶ月、父親は見付からない。
生死さえも、分からない。
以前から父親は仕事が忙しいのもあり、
一週間くらい自宅に帰って来ないのはザラだけども。
流石に1ヶ月は…。
それに、今回は職場にも1ヶ月以上父親は姿を見せていない。
「まあ、勝負に勝ったのは俺だから。
どうする?
彼氏と別れる?それとも、俺と熱い夜を過ごす?」
「…昌也と別れるのは、ない」
「そう」
「私が先にシャワー浴びていい?」
「どうぞどうぞ」
そう、クスクスと笑っている。
私は一夜から目を逸らし、バスルームの方へと歩いて行く。
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