第14話

「でも真湖ちゃん。

さっさと今の彼氏と別れて、次に行きなよ?」



「あなたに言われなくても…」



分かっている、と言い返そうと思うけど。



「私、昌也と別れたくない…。

だって、好きだもん」



付き合っていても、私ばかり好きな関係。



昌也がそれ程私の事を好きじゃない事は、気付いている。




「じゃあ、これからも浮気に目を瞑っていればいいよ。

そういう不誠実な男は楽な女が好きだから、最後には真湖ちゃんの元に戻って来てくれるよ?」



この人の言うように、そうなのだろうか?



この人が言うと、そうなような気がしてくるけど。



昌也と付き合い出してからの、6年間。



私が楽な女だから、捨てられずに済んで来た。



加賀見一夜は、黙々とフォークでケーキを食べ始めるので、


私も同じように、食べる。



生クリームが凄く美味しくて、思わず声が出そうになる。



「…なんか話してよ」



加賀見一夜は、吹き出すように笑い出す。



「だって、あなたが黙ってケーキ食べ出すから」



なんとなく、話しにくい雰囲気で。



「さっきから気になってたけど。

あなたじゃなくて、一夜って呼んで。

さん、とかもいらないから」



名前を呼び捨てに?


いいの?



「…い、一夜?」



「何?」



そう首を傾げて訊かれた顔と声が色っぽくて、ちょっとドキっとした。



「私に戻って来いって言ったのは、

こうやってお祝いしてくれる為だけ?」



「なに?俺とヤりたいの?」



その目に、吸い込まれそうで。



「そうじゃないけど…」



そうじゃない、けど。



こんな風に、ただ祝って貰っていいのだろうか?



見ず知らずのような、私に。



一夜は急に大きなホールのケーキを、フォークで半分に割る。




「早食い競争しよう。

俺が先に食べたら、俺とヤるか、その警察官の彼氏と別れるかどちらか選んで?」



「もし、私が勝ったら?」



「なんでも、真湖ちゃんの言う事聞いてあげる」



勝てる自信があるのか、笑っている。



「…分かった」



そんな勝負…と思うけど。



受けて立ってしまう。



甘いものは好きで、勝つ自信もあるからなのもそうだけど、

この人がなんでも私の言う事を聞いてくれるのは、魅力的だ。

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