第16話

私がシャワーを浴び終えて部屋に戻ると、



「真湖ちゃん。けっこう色っぽいね」



バスタオルを巻いただけの私の姿を一瞥すると、一夜はすれ違うようにバスルームの方へと消えた。



私、本気で今から…。



既に、酔いは覚めていて、意識はしっかりとしている。



ベッドに腰を下ろし、俯くと。




なんだか、ちょっと泣けて来る。



私、自暴自棄になっているんだな、って。



昌也の事がとてもショックで…。



私だって、浮気してやろう、って。



加賀見一夜は、昌也にとったら天敵みたいな相手で。



当て付けに浮気する相手としては、

申し分ない。



暫くすると、一夜が戻って来た。



腰にバスタオルを巻き、こちらへと来る。



その鍛えられた逞しい上半身に、少し見惚れてしまう。



私の横に座るのかと思いきや、ベッドに膝で乗り、

ベッドボードのパネルで照明を落として行く。



その背に描かれた、金色の獅子。



ライオンの刺青。



その刺青も、部屋が暗くなると、ぼんやりと浮かび上がるように見える。




「真湖ちゃんって、今までこうやってノリでしちゃったりとかあるの?」



「え?」



ノリ…。



そうか。この人とこうなっているのは、ノリなのか?



「ううん。私はちゃんと付き合った人としかした事ない。

と言うか、昌也以外ない」



私は付き合う事から始まり、全ての初めてが昌也。



そして、今も全て昌也だけ。



いや、さっきこの人にキスされていたから、キスはこの人とも。




「やっぱ辞めとく?

この先、本当に真湖ちゃんの事を大切に思ってくれる男と付き合った時、

俺との今夜の事思い出して、後悔するよ?」



今、後悔しないと思うのは、昌也が私を大切にしてないと、私も思っているから。



「だって、私、昌也とは別れない」



だから、そうやって後悔する日なんて来ない。




「真湖ちゃん、頑固だね」



一夜は私の方へと少し移動すると、

肩に手を回して、私を引き寄せて来る。

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