【閑話1】巡礼開始前 その3

【SS 戦う理由】


「……ふぅ。

 これでわかったか! あたしこそがアイファ先輩に相応しいんだってことがさ!」


 それはエスカの達成感。


 ようやく全ての神子みこたちを……あ、あまり口にはできない方法で無力化した際の満足感であった。


「うぅ~無念、です~」

「お、お姉様~、ごめんなさい~」

「でも……お股、気持ち良すぎりゅぅぅぅ~」


「……あ。終わったみたい」


「1人、目覚めちゃいそうな子もいるみたいだけど……」


「目覚め?

 ……ま、まぁ、なんにせよ。それなら早速、巡礼先に向かうとするか」


 正直、2人に対しては色々と説明してもらいたかった私であったが、ここに居続けるとまた神子みこたちにエスカが変なことをしかねないしな。


「それじゃあアイファ。気を付けて。

 まぁ、あなたのことだから大丈夫だとは思うけど……」


「あなたが死んだら悲しむ子が沢山いるってことは、忘れないでよね」


 そもそもこの神子みこたちが、私とエスカだけの旅路を反対したのも、巡礼という命の危険を伴う仕事に、エスカのようないい加減な者しか連れて行かないことを心配していたからだとユリン&モーリィ。


「……わかっているさ。常在戦場。

 それは私が神子みこ時代にツクモ先輩・・・・・から教わったことだしな」


 おかげでその心配には感謝をしつつ、既に気合は十分だと私は笑ってみせる。


「ツクモ先輩?

 ……って、ああ、あの『廃種ポリュシアン』になっちゃったっていう、あの……


「ユリン」


「え?

 ……あ。ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど……」


「……いや、気にするな。それは事実でしかないからな」


 それは私がフォルグ打倒を掲げるキッカケとなった大事件のお話。


 ツクモ先輩という私の神子みこ時代の先輩にして、私が彼女に敵うためには『力強さ』よりも『速さ』に特化した方がいいと獲物をレイピアに決めるほどの剛腕を誇り、私が知る限りでは戦乙女ワルキュリアの中でも一、二を争うほどの力を有していた……


 今では世界の敵として排除される運命にある『フォルグ襲撃未遂事件』を起こした加害者――ということになっている、実は最大の被害者たるお方の事。


 おかげでその事件は今でもこのハイラルディンでは語り草であり、フォルグが身の安全のためにと、ほぼ外に出なくなってしまっていた……が、それはそれとして。


 対外的には私の身内だった人の尻拭いをするために、私が全霊で付け狙っているということになっている、実はフォルグ打倒のため協力関係を結んでいる相手の話は、事実を知らないのなら確かにセンシティブな話だと思ってしまうのも無理はない。


 たとえ今は廃種ポリュシアンという世界の害悪として、戦乙女ワルキュリアが処分しなければならない対象になっていたとしても、元々は彼女と私は苦楽を共にしたパートナーだったのだから、何も感じない訳がないと。


 無論、私自体もそのことについて何も想っていないということはないが、実際は先ほど言ったようにただの協力者でしかないので、そんな風に思う必要は無いのだが。


 だからと私は「大丈夫だ」と笑顔を見せると、2人もこれ以上は踏み込まないと決めたように、安堵したという表情を無理矢理作って見せてくる。


 そうして、2人との会話を終わらせたと私は、


「お~い、エスカ~。

 その子たちのパンツを剥ぎ取ってないで、そろそろ出発の準備をしろ~。

 ……というか、なに脱がしてるんだ! お前は!」


 と、私たちが話している間、何故か神子みこたちのパンツを回収していたエスカに注意を促す……って、何してるの? さっきから。


「えぇ~?

 あたしに逆らうと二度とパンツを履けないよって、

 アピールしようと思ってたのに~」


「馬鹿なことしてないで返しなさい……」


「……は~い」



 こうして、適当に神子みこたちに向かってパンツを投げ捨てたエスカと共に、私は軽くユリンとモーリィに手を振りつつ、ようやく巡礼の旅へと出立するのであった。


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