【第3話】知らない姉

「……ふふっ♡ お邪魔しま~す♡」


 それはハイラルディンから巡礼をするためと旅立ってから最初に訪れた夜のこと。


 実は巡礼の目的を何一つ理解していなかったということで、夜を明かす準備などを何一つしていなかったエスカに対し、仕方ないとばかりに私が用意していた毛布の中に入れてやることにした際の、馬車の荷台の中での一幕。


「全く……だからその程度の荷物でいいのかと、出発前に聞いたというのに」


「エヘヘ~♡

 アイファ先輩と一緒にお出かけできるって浮かれてたので、

 全然話し聞いてませんでした♡」


「巡礼をお出かけと言うな……」


「わかってますって。……あれでしょ?

 なんか悪いやつを代わりにやっつけにいくって話ですよね?」


「ま、まぁ、ざっと話をまとめればそうだが……

 いいか? 今から行くリココ村は、

 近くに廃種ポリュシアンが住み着いてしまったかも知れないということでだな……


「まぁまぁ。

 それよりさっさと寝ませんか? 明日もきっと早いんでしょうし」


「お前ってやつは……

 まぁいい。確かにその通りだしな」


「それじゃあ……

 エヘヘ~。アイファ先輩、温か~い♡」


「いちいちくっつくな!」


「え~。いいじゃないですか~。別に暑いって訳でもないんですし~」


「それはそうだが……」


「じゃあ、許可も下りたことで……遠慮なく♡」


「いや、少しは遠慮しろ……全く……」


 そうして、どちらからともなく目を閉じ、今日という日を終わらせようとする私たち。


 ……だったが。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……ん♡」


「……」


「……んふぅ♡」


「……」


「……んんっ♡」


「……」


「……………………んんんっ♡♡♡♡♡!!!!!」



「何してるんだ、お前はぁぁぁぁぁ!!」



「……スゥ……スゥ」


「え? 寝入るの早っ……じゃなくて!

 ……き、気のせいだったのか?

 なんか、私の足に自分の股をこすりつけてきていたような気がしたが……

 さ、流石に寝ているのにそんなこと……


「……んふっ♡」


「あった!! 絶賛こすりつけ中だった!!

 ……って、おい! 起きろ!! 私の足を使って変なことをするな!!

 おいってば!! おい!!」


「……ふえ?」


「ふえ? ……じゃない! 何をしてるんだ、お前は!!」


「ん~。どうかしたんですか~? アイファ先輩」


「どうしたもこうしたもあるか!!

 まだ寝ようとしてから1分も経っていないというのに、

 お前が寝ながら私の足に股をこすりつけてきたんだろうが!!」


 おかげで私の太ももがちょっと濡れたじゃないか!!


「え? 股?

 ……って、あれ? なんかパンツが濡れてる?」


「ほ、本当に無意識だった……だと?」


「……アイファ先輩」


「ん? どうした?」


「言ってくれればいつでも触らせたのに~。アイファ先輩のエッチ~♡」


「全部、お前からしてきたことだろうがぁぁぁぁぁ!!!」


 こうして、この日以降、私はここなら2人で寝られないだろうということで、馬車の御者席という不安定な場所で寝ることにしたのであった。



 ……って、なんで私がこんな所で。



 ◇ ◇ ◇



「……あぁ、肩や腰が痛い……」


 それは御者席で寝ることになってしまっていた私の体へのダメージによる……って、解説は不要だよな。


「全く、次はあいつを御者席に乗せて……って言っても、

 私が寝入ったらすぐに私の懐に入ってくるだろうからな。……ハァ。

 これからも私があそこで寝るしかないのか。……ハァ~~~」


 おかげでいきなり巡礼に――しかもこんなことでつまづいてしまったという私だったが、それでも誰の目も気にせずフォルグ打倒のための仲間集めに費やせる時間は貴重だと、気合を入れ直すと、


「……まぁいい。それよりも、人の目が無い今、いい機会だし、

 あいつにもそろそろ私の目的を告げねばな」


 私がフォルグを『殺そうとしている』ということを。

 そして、その作戦に協力してほしいということを。


 ちゃんと告げるかと覚悟を決める。


「……となれば、まずはあいつを起こすか。

 お~い、朝だぞ~。そろそろ起き……




「……ハァ~イ♡

 起き抜けのお姉ちゃんのおっぱい、た~っぷり飲みまちょうね~♡」


「うん♡ お姉ちゃんのおっぱい♡ いっぱい飲む♡ チュ~♡♡♡」


「……」




 それは荷馬車で見たまさかの光景。


 スッポンポンにされていたエスカが、サイズがやや小さめの黒の下着しか身に着けていない側頭部に牛のような角、お尻に牛のような尻尾が生えているという、緑髪で泣きボクロのある少女だか青年だかのおっぱいを、無心で吸っているという謎の姿であった。


「……いや、それお姉ちゃんではなく、お母さんでは?」



 おかげでその突然すぎる光景に、私はこんなことしか言えないのであった。

 ……って、ナニコレ?


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