第一話 ブルーソックスファンはお祭り好きでね
実況:さあ試合は早くも九回裏、ブルーソックス三点を離されてのピンチでこの回を迎えております。
解説:ブルーソックスは現在リーグ最下位の苦しい立ち位置ですからねー、ピンチヒッターもここまで粘られては逆にメンタル的に負担なのではと思ってしまいますね。
実況:ブルーソックス今回は大物を連れて来たにもかかわらず、ここまで一度も打席に立たせておりません。
解説:ファンからしたら歯がゆいでしょうね。
実況:すでにこの回ツーアウト、しかし粘りの満塁、まだサヨナラに賭けることはできる! あーッとここでェーッ!?
場内アナウンス:長らくお待たせしましたァ! 六番、ピ~ンチヒッタ~、カ~ロライナ~・ザ・ハ~ウンドゥッ!!
実況:ここで超大物ピンチヒッター登場だ~ッ! 場内の盛り上がりは地鳴りのようです!
解説:待たされた甲斐がありましたねー。ユニフォームを着てもすべての画角でキマッていますカロライナ! あ、すごい、本邦初公開であろう応援歌が演奏されております。
実況:ずっとおまえを待っていた、ピンチをチャンスに変えてくれ、おまえにならすべてを託せる! 球界でもボスの風格を見せてくれるのか!?
解説:おお!? あれは……
実況:なんて男だトリックスター! 久しく見ていない予告ホームランッ!
解説:ただのピンチヒッターとはもうすでに格が違いますね。スタジアムは歓声とどよめきでもはや不協和音です。
実況:ホンも先程からしきりにキャップを直していますね。コヨーテの目にヒツジは怯んだか!?
解説:勝ち星が取れないですからこのまま続投でしょう。しかしブルーソックスの采配は見事と言うべきか。誰かのミスがあればこんなお膳立てはできないでしょう。ここまでの試合すべてがカロライナのこのイニングを作るためのように思えてきます。
実況:緊張の一瞬です。……投げた、インコース!……打った~~~!! 伸びる伸びる伸びる!!
解説:ちょっと……いやあ、はは、もういろいろ通り越して……笑えますね……!
実況:まだ伸びる! 確実にサヨナラだ! どこまで伸びるんだ、どこまで……
場内アナウンス:場外ホームラン!!
実況:にわかに信じがたい事態になっています、セイントスタジアム! ビデオ判定が入りますので少々お待ちください。
解説:肉眼でしっかり場外だったんで、パフォーマンスしぐさですけどね。
実況:スローで確認してみましょう。インコースにまっすぐ入りましたこちらも145キロの剛速球でしたがカロライナまっすぐ打ち抜いております! 打球はほぼ直線に伸び続け、ややライト寄りのセンターに突っ込んで……ああ~まごうことなき場外ホームラン! いま、場外から打球が届きました! 再び大歓声に包まれる場内!
解説:プロ選手ですらこんな球一生にほとんど打つ機会ないですよ。相手が異邦人から硬式ボールに変わっても華々しい活躍です。
実況:異例の大活躍、カロライナ・ザ・ハウンド! ブルーソックスのピンチを見事なサヨナラ場外ホームランで救ってくれました! ありがとうカロライナ、ありがとう!
解説:ヒーローはイニングのピンチをも救うことができる、これで証明されましたね。
実況:スタジアムの熱狂はとどまるところを知りません! ああ、さすがはヒーロー、スポーツマンシップも持ち合わせているのか、ベルズ選手たちとの握手を交わしています。
解説:大きくモニタに抜かれているお弟子さんの号泣も凄まじいですねー。
実況:えー、まもなくヒーローインタビューが始まる模様です。しばらくお待ちください。……お待たせしました、設営が整ったようです。
インタビュワー:放送席ー、放送席ー。本日のブルーソックス、野球史に残る見事な場外のサヨナラで勝利を収めました! そして本日のヒーローはもちろん、ヒーローオブヒーロー、カロライナ・ザ・ハ~ウンドゥッ!
カロライナ:おう! みんなお疲れさん!
インタビュワー:素晴らしい打席でしたカロライナ! 登板はラストもラストでしたが、元からその予定だったのでしょうか?
カロライナ:俺としては、もっとバカスカ打ってみたかったけど、ま、本業じゃないんでね。だがまあ、ヒーローは遅れてやってくるものだ、っつーのは、よく聞く話だからな。そこでカッ飛ばせたんなら、嬉しいモンだぜ。
インタビュワー:なるほどー。ホームラン直前はピッチャーのホン選手を強く見ていましたね。これも、コヨーテならではの牽制だったのでしょうか?
カロライナ:ン? や、どんな球でくるかなとは思ってたけど。いやいや、異邦人相手でもねえのにメンチは切らねえよ! ハハッ!
インタビュワー:しかしその眼力だけでも勝ちにはじゅうぶんだったようです! どうですか、打ってみてのご感想は?
カロライナ:そーね、新鮮。ボールってあんな素直にまっすぐ飛んでくれるんだなー……ってな。異邦人はああはいかなかったからな!
インタビュワー:さすがは元トキシカ第二部隊隊長、常人とは違った感想ですね。では最後に、もし、またピンチヒッターとしての活躍があれば、やってみたいことはなんですか?
カロライナ:もし次があるんなら、フツーにヒット打ってみたいなあ。俺、走るのも好きだからさ。ヒットと言わずツーベース、なんならランニングホームランなんかも狙ってみてえモンだ!
インタビュワー:なるほど! 獣人特有のスピード勝負が見られるかもしれない、ということですね!
カロライナ:ん、そう、なんかな? ま、期待すんなら、監督に頼んでくれよな! ありがとよ!
インタビュワー:ヒーローは遅れてやってきて、そして短く言葉を交わして去る! 素晴らしい試合をどうもありがとう、カロライナ! 本日のヒーローにおお~きな拍手を~!
実況:次回にも意欲があるとは、かなりの意気込みですね。しかし今日のような活躍であれば、しばらくは球界での活動が見られる可能性もゼロではありません。
解説:穴も異邦人も観測されないとなると、トキシカのメンバーは今後こういった場面でのお目見えが増えてきそうですよね。いやー、つくづく自分の現役時代にこの騒動にならなかったことに安心しています。
実況:私は夢の師弟対決が見てみたいですね、ブルーソックスにカロライナ、ベルズにお弟子さんをゲストバッターに迎えての試合なんていいんじゃないですかねー。
解説:ずいぶんと豪勢なキャスティングですね~! では、監督にお願いしなくてはですね。
実況:期待したいですね。さ! 本日のベルズ対ブルーソックス戦は、ゲストバッター・カロライナの九回裏ツーアウト満塁からの大逆転場外ホームランという、まるでコミックのような展開で、ブルーソックスの勝利となりました。また明日のナイターでお会いしましょう。さようなら!
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