第三話 影と炎
革新連のメンバーが秘密裏に移動を開始した夜、沖縄本島はさらなる緊張に包まれていた。人民解放軍の監視網は一層厳格になり、通行する車両や市民への抜き打ち検査が行われていた。それでも、彼らは「希望」を捨てることなく、次の一手を模索していた。
小さな港町、廃墟と化した造船所の片隅。そこが、革新連の待ち合わせ場所だった。潮の香りと鉄の錆びた匂いが混ざり合い、夜の空気を重くしている。
物資を運び込む作業を進めながら、隊員たちの中には不安が渦巻いていた。
「本当にこのルートで安全なのか?」
若い隊員の一人が、不安げな声を漏らした。
「確信はない。でも、ここに留まるよりマシだ。」
片山の声は低く、威厳を伴っていた。しかし、彼自身も内心の焦りを隠しきれなかった。
見張り係の男、名を「滝沢太一」という彼は、船に積まれた物資を確認しながら耳をそばだてていた。どこからともなく聞こえる小さな音――風か、それとも敵の足音か。彼の手が自然と腰の銃に伸びる。
そのとき、遠くからエンジン音が聞こえてきた。
「誰か来るぞ!」
滝沢が声を上げると、全員が身を潜めた。暗闇の中、近づいてくるライトの明滅。船を用意していた協力者か、それとも敵か。
エンジンが止まり、静寂が訪れる。足音が近づいてきた。
「太一、確認に行け。」
片山の指示に従い、滝沢は音のする方へ進む。砂利を踏む音に耳を澄ませながら、銃を握る手に力が入る。
角を曲がると、そこには……見慣れた顔があった。
「協力者だ!」
滝沢が小声で報告し、全員がほっと息をついた。しかし、その安心は一瞬で終わる。
船に荷物を積み終え、全員が出航の準備を進めていると、遠くの空に赤い閃光が走った。続いて聞こえる爆発音。
「……敵が別の場所を攻撃している?」
隊員の一人が呟いたが、片山は険しい顔をしたままだ。
「違う。陽動かもしれない。早く出るぞ!」
その言葉を皮切りに、一行は急ぎ船へと乗り込んだ。エンジンが唸りを上げ、波間に滑り出す。夜の闇に溶け込むように、船は静かに進んでいった。
だが、その背後では、別の影が確実に迫っていた。
人民解放軍の部隊は、すでに連合の動きを察知していた。昨夜の交戦で捕虜となった浅川が、重要な情報を漏らした可能性が高かったのだ。
「反乱分子は船で逃走を図る。恐らく南の孤島が目的地だ。」
張少将は冷徹な表情を浮かべながら部下に命じた。
「追え。絶対に逃がすな。」
すぐさま追跡用の高速艇が出動し、サーチライトが夜の海を切り裂き始めた。
沖縄本島を離れてしばらく、革新連の船は暗闇に隠れながら慎重に進んでいた。片山が双眼鏡で前方を確認する中、滝沢が無線機を握って耳を澄ませていた。
突然、彼が声を上げた。
「無線が割り込まれた!敵が近い!」
その瞬間、船尾の方から光が差し込んだ。追跡してきた高速艇のサーチライトが、彼らを捉えたのだ。
「全速力で逃げろ!」
片山の叫び声が響く。エンジンを全開にし、船は波を切り裂きながら進む。だが、追跡艇の速度は段違いだった。
そして、銃声が鳴り響く。敵の追跡艇から放たれた弾丸が、船の側面をかすめる。
「応戦する!」
若い隊員たちが拳銃を手に取り、追跡艇に向けて反撃を試みる。しかし、暗闇の中での射撃は効果が薄く、敵の猛攻を抑えきれない。
「ここで捕まるわけにはいかない……!」
滝沢がそう呟くと、突然立ち上がり、バッグから小型の閃光弾を取り出した。
「なにをする気だ!?」
片山が制止する間もなく、滝沢は閃光弾を敵の方向に向けて投げつけた。
轟音とともに、海面が一瞬、昼間のように明るく輝いた。その光に目を奪われた追跡艇は混乱し、一瞬だけ距離が開いた。
「今だ!全速力で逃げる!」
船はその隙にスピードを上げ、暗闇の中に消えていった。
日の出が近づくころ、一行はようやく目指していた孤島の影を視認した。波に洗われた小さな島、その奥には密林が広がり、敵の手が届かない隠れ家に見えた。
だが、彼らは気づいていなかった。この島には、新たな試練と、さらなる陰謀が待ち受けていることを。
静かな波の音の中に、不穏な風が吹き抜けていた――。
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