第四話 孤島の盟約

革新連の一行が孤島に辿り着いたとき、夜明けの光が海を照らし始めていた。疲労に覆われた彼らは、とりあえず島の奥へと進む。密林の深い緑が彼らを包み込み、追跡者の目を遮っているように見えた。だが、この島が彼らに安らぎをもたらす場所ではないことを、誰もがどこかで感じていた。



島の奥地に進むと、廃墟と化した集落の跡が現れた。木造の小屋がいくつか朽ち果て、自然に飲み込まれている。その中でも比較的しっかりとした構造を保っている建物を拠点とすることに決めた。


「ここならしばらくは隠れられそうだ。」

片山の声に安堵が混じる。隊員たちは手分けして、食料の探索や防衛線の確保に取り掛かった。


一方、南条と滝沢は無線機を調整していた。昨夜の襲撃以降、通信機器が正常に動作していない。無線機をいじりながら、彼らは考えていた――追跡者たちがここに来る可能性はどれくらいあるのか。


そのとき、不意に無線機からノイズ交じりの音が聞こえた。


「……応答せよ。こちらは琉球解放同盟軍、貴部隊の存在を確認した。繰り返す、応答せよ。」


滝沢は驚き、片山に無線機を見せた。

「琉解軍だって……?」



無線での交信に成功した後、革新連と琉球解放同盟軍は接触地点を指定し合った。指定された場所は島の中央部にある洞窟だった。


洞窟内に入った革新連のメンバーたちを待っていたのは、琉球解放同盟軍の部隊だった。彼らは少数ながら精鋭部隊の雰囲気を漂わせている。リーダー格と思しき男が歩み寄り、片山に手を差し出した。


「初めまして。私は琉球解放同盟軍の副司令、名を島袋という。」

片山も手を握り返し、名乗った。

「革新連のリーダーだ。詳しい名前はまだ名乗らない方がいいだろう。」


島袋は静かに頷き、洞窟の奥へと案内する。その際、彼は一行にこう付け加えた。


「本来なら、我々の司令官である知花がここにいるべきだった。だが、彼女は別の作戦にあたっており、現在連絡が取れない状態だ。」


南条が少し警戒するように言った。 「司令官が不在の状況で、こんな大規模な作戦を進めるんですか?」


島袋は落ち着いた表情で答えた。 「彼女からの指示は既に受けている。それに、私たちは彼女がいなくとも行動できるよう訓練されている。我々の目的は揺るがない。」


南条はその言葉に少し安心しつつも、知花の不在が彼らにどれほどの影響を与えているのか、心の中で推測していた。



洞窟内には、琉球解放軍が持ち込んだ装備や物資が並べられていた。銃器、通信機器、そして食料――どれも洗練されており、彼らが計画的に動いていることを示していた。


島袋は地図を広げながら言った。

「沖縄はかつて、我々の祖先が命をかけて守った場所だ。日本政府にも、そして中国の侵略にも屈しない抵抗の象徴だ。」


片山が頷きながら言った。

「だが、今の状況でどうやって反撃するつもりだ?中国の勢力は強大だ。」


島袋は微笑み、地図上の赤い点を指さした。

「この海域には、戦時中に隠された物資が眠っている。これを手に入れれば、局地的な戦力を大幅に強化できる。」


南条が地図を覗き込みながら言った。

「その物資をどうやって見つけるつもり?」


島袋の背後から、一人の兵士が口を挟んだ。

「我々はその場所を知っている。ただ、敵の監視を突破するには、君たちの力が必要だ。」



革新連のメンバーたちは島袋の提案に賛否を分けた。一部は、琉解軍と手を組むことで敵対勢力を増やすリスクを懸念していた。一方、物資の確保が急務であることを考えると、この共闘は大きな意味を持つ。


議論の末、片山が立ち上がった。

「俺たちはこの島に閉じこもるつもりはない。琉解軍と手を組み、中国に対抗する足掛かりを作る。それが今できる最善の道だ。」


島袋は満足げに頷き、手を差し出した。

「では、盟約を結ぼう。我々は共に戦う運命にある。」



その夜、革新連と琉球解放同盟軍は初の合同作戦を計画した。目標は海底に隠された物資の確保。周囲には中国軍の無人偵察機が飛び交っているが、両組織が持つ知識と技術を組み合わせることで、成功の可能性は高まると見られていた。


洞窟内では、装備の点検と役割分担が行われていた。南条は通信機器を調整しながら、島袋に尋ねた。

「あなたたちはどうしてそこまで、この島を守ろうとするの?」


島袋は遠くを見つめながら答えた。

「沖縄は単なる土地じゃない。私達の誇りそのものだ。そして、そこに生きた人々の魂が眠っている。それを汚させるわけにはいかない。」


夜空に星が広がる中、革新連と琉解軍のメンバーたちは、静かに誓いを交わした。翌日の作戦成功が、彼らの未来を左右することになるだろう。


海からの冷たい風が、嵐の前触れを告げるように吹き抜けていた。

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