第二話 火種

夜が明けると、沖縄の街並みにはいつも以上に重苦しい空気が漂っていた。人民解放軍の装甲車が街路を練り歩き、市民に圧力をかけるかのように、その存在感を誇示している。昨夜の余波で、人民解放軍の警戒は非常に高まっている。



瓦礫の山をくぐり抜けた先、廃ビルの地下にある薄暗い一室。そこが、革新連の拠点だった。裸電球の明かりが揺れ、壁には手描きの地図と作戦計画が張り巡らされている。その中心で、片山が激しく机を叩いた。


「昨夜の損失は痛すぎる……連絡班と医療班、どれだけ生き残った?」

声には怒りよりも疲労がにじんでいた。


隊員の一人が進み出て答える。

「第二班は壊滅です。通信係だった浅川が行方不明、他の隊員も戦死か捕縛されました。物資も半分以上奪われたようです。」


その報告に、室内にいる全員が沈黙した。重く垂れ込める失望の空気を破ったのは、南条の声だった。


「浅川がいなくなったのはおかしい。撤退の指示は全員に伝えたはずよ。」

声にはわずかな苛立ちが混じっていた。それを聞いた片山が彼女をじっと見据える。


「……裏切り者がいると言いたいのか?」

「可能性としては否定できません。」

彼女の言葉に、部屋の空気がさらに緊張感を増した。



一方、沖縄の中心部では人民解放軍の司令部が設置された県庁ビルの中で、別の緊張が高まっていた。司令官である張天偉少将が部下たちを前に、昨夜の事件の報告を受けていた。


「反乱分子は我々の警戒を突破し、物資の搬入を試みました。しかし、砂浜での戦闘で大半を殲滅したと考えられます。」

部下の報告に、張少将は満足そうに頷いた。


「良いだろう。だが、完全に掃討できていない以上、次は奴らの拠点を突き止める必要がある。」

彼は部下たちに命令を下すと、机の上にある沖縄の地図に視線を落とした。彼らは新たな作戦を準備していた。沖縄の住民たちの協力を得るために、さらなる弾圧とプロパガンダを組み合わせた「心理戦」を展開するというものだ。



地下拠点では、再編成が急ピッチで進められていた。壊滅状態となった第二班に代わり、新たな作戦班を結成するための人員調整が進む。その中で、片山と南城の間で緊張が高まっていた。


「裏切り者を疑う前に、まず自分たちの動きの甘さを認めるべきだ。」

片山の指摘に、彼女は唇を噛んだ。


「疑うことは、組織を守るための義務です。誰かが情報を漏らしている可能性があるなら、それを調べるべきです。」


その言葉に、他のメンバーも不安げな表情を見せた。地下で生活する彼らにとって、裏切り者の存在は致命的だった。



その夜、革新連は次の一手を打つために島の全隊員を招集し、緊急会議を開いた。目的は、人民解放軍の占領網を突破し、支配地域外にある小さな孤島への逃亡を試みることだった。そこには、未だ占領を免れたレジスタンスの秘密基地が存在すると噂されていた。


しかし、この計画の成功は限りなく不透明だった。人民解放軍の監視は日に日に厳しさを増しており、物資や人員の移動は命がけだ。


「成功率が低いことは分かっている。しかし、ここに留まれば、全員が捕まるだけだ。」

片山の言葉に、全員が静かに頷いた。


その翌日、革新連のメンバーは、沖縄を脱出するための命懸けの行動を開始した。それは、さらなる戦いの序章に過ぎなかった。


人民解放軍の監視の目を掻い潜りながら進む彼らの運命は、仲間への信頼、裏切り者の正体、そして自分たちの信念が試される闘争の中で揺れ動くことになる。沖縄という火薬庫の中、黒い波はますます激しく押し寄せようとしていた。

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