6:破鎚


「ぐうぅ!!」

『我が王!』


 洞窟爪大狼ダンジョン・ワーウルフの一撃が、また掠る。こんどは右肩がばっくりと裂けた。

 

 まずい、本当にまずい! このままじゃ死ぬ!

 こっちの動きを学習してきているのか、だんだんと洞窟爪大狼の動きが素早くなっている。このまま何もできないと、追いつかれてデッドエンドだ。


 何かないか、何か、コイツを倒す手立てが──!!


「……! マイン、お前の石突いしづき、使うぞ」

『我が王、何を──』


 今のオレの身体能力なら、きっといける!


 洞窟爪大狼が爪を振り下ろしたタイミングで……その爪の間に、マインの柄を突き立てる!


『なっなにを』

「はぁっ!」


 爪を振り上げようとするタイミングで、マインを離さずオレもそのまま宙へ浮く。

 そして天井まで届くほど打ち上げられた辺りで、オレはマインを大上段に振り上げた。


「ああああああああああ!!」

「────!!」


 洞窟爪大狼の咆哮と、オレの叫びが洞窟に響き渡る。

 オレはマインを思いっきり振り下ろし、洞窟爪大狼の頭を潰そうと力を込めた。


 ドチュ、と肉が潰れるような、抉り取られるような音がして、そして同時にオレの脇腹に信じられないような激痛が走った。

 

 思いっきり吐血し、視界が真っ白になる。

 そのまま石畳に叩きつけられ、オレは意識を失った。


 *


「──はっ!」

『おお! 我が王、お気づきになられましたか』


 バッと身体を起こす。どうやら完全に気を失っていたようだ。

 マインは握りしめたままだった。そのことに安堵する。

 しかしあの戦いは? 洞窟爪大狼はどうなったんだ?


『あれから一時間ほど経っております。我が王は洞窟爪大狼の爪で脇腹を九割抉られて、死んでしまったのでございます』

「じゃあ……負けたの?」

『いいえ、相打ちでございます。ほら、洞窟爪大狼の亡骸はそこに』


 すぐ隣を見れば、頭を潰された洞窟爪大狼の死体が横たわっていた。

 オレはどうやら、頭を潰すと同時に爪によって腹をほぼ真っ二つにされ、ついでに着地ができず頭を石畳に叩きつけられて死んだようだ。

 今はすっかり再生し、なんともない。しかしポケットのエメラルドが数個消えている。蘇生に使われたんだろう。


「こ、怖かった……」

『勇敢に戦われましたね。蘇生も完璧ですから、じゅうぶん我が王の勝利です!』

「そうかな……?」


 死んだことには変わりないんだけど。

 で、でも、オレは生きてて、相手は死んでる。危険度A+相手に生き延びた?んだ! やった!!


「マイン! お前のおかげだ!」

『ワタクシはただ使われただけのこと、我が王のアイデアには度肝を抜かれましたぞ!』

「へへ……あ、魔核とらなきゃ」


 魔核は、他の魔物がそれを食べると食べた魔物が強化されてしまう。なので、倒した魔物の魔核を取ることは採掘家マイナーとして必須事項って、採掘家のお姉さんが言ってた!

 マインでなんとか爪を折って、その爪で肉を引き裂いていく。獣臭と血の匂いで吐き気がするけど、我慢して魔核を取り上げた。

 オレの頭ほどもある大きな魔核だ。その大きさでこの狼がどれだけ強かったのかわかる。

 改めて、倒せた事実に心臓が速くなった。


「でも、流石に持ち歩くには嵩張るな……どうしよう」

『であらば、ワタクシが取り込みましょう!』

「取り込む?」

『ワタクシの機能に、魔核を魔力に変換する物があるのです。必要があれば我が王にお渡しできますし、魔核自体は無くなるので嵩張りません!』

「へぇ、本当に便利なんだなぁマインって」


 頭良いし、蘇生もできるし、魔核を魔力に変換できるし、掘れるし……。万能の名に恥じない。

 そう言えば、マインは照れたようにトパーズをチカチカさせた。


『ワタクシに貯めた魔力を衝撃波に変換することも可能です! 今まではその分に足りませんでしたが、この魔核を魔力に換えれば充填は完璧! より一層戦闘の手助けができることでしょう!』

「へぇ! そういうのもあるのか! すごいな!」

『フフフ、フフフフフフフ〜!!』


 マインは得意げに笑う。

 衝撃波、衝撃波かぁ……ロマンあるなぁ。ドーン! ってやって、バーン! ってなるのだ。ただでさえヒヒイロカネの硬さがあるんだから、衝撃波なんて加わればさらに攻撃力アップだ!

 でも、それを使いこなせないと意味ないんだよな……オレ自身も、戦いに慣れていかないと。


『早くしないと、血の匂いに魔物が寄ってくるかもしれません。ワタクシのトパーズに、魔核をかざしてくださいませ』

「こう?」


 オレがなんとか片手で掴んでトパーズに近づけると、魔核が液体のように溶けてトパーズに吸収された。どことなく、トパーズの輝きが増したように思える。

 これで吸収されたってことなんだろうか?


『充・填・完・了! これなら衝撃波も五発は撃てますよ!』

「むしろこれだけあって五発しか撃てないんだ……コスト高いな」


 A+の魔物の魔核で五発となると、慎重に使わないとすぐガス欠になりそうだ。

 魔核の吸収を確認したオレは、速やかに洞窟爪大狼の亡骸から離れる。屍肉狙いの魔物とかが来たら厄介だ。

 200階層は比較的ひらけていて、広い通路が四方に伸びている。分かれ道だが、今のオレにはマッピングも地図も何もないので、勘で進むしかない。

 なんとな〜く良さそうな石の気配がする方に、歩いて行こう。


「マイン、さっきみたいに魔物が近づいてきたら知らせて」

『索敵もこのマインにお任せあれ!』


 あちこちに石の気配があるから、なかなか魔物の気配をすぐに察知できない。索敵はマインの方が向いてそうだ。

 マインも石の気配は感じ取れるんだろうけど、オレの方がまだ二つの気配の分け方に慣れてない感じ。

 こう、視線というか……ほんとに、沢山の鉱石が露出してるから、多すぎるんだよな。どうしても生き物の気配に集中できない。


『右方向に敵性反応! 下がってください!』

「っ!」


 マインの叫びに反射して、俺は勢いよく後ろに下がった。

 こちらに向かってきているのは、鋼みたいに輝く角を持った……牛?


鋼牛鬼メタル・ブルです! 危険度A+、突進に気をつけて!』

「またA+かよぉ!!」


 一直線に突撃してくる鋼牛鬼。早めに気づいたから良いものの、気づいてなかったら確実に轢き殺されてたな……。

 うん、コイツで衝撃波を試そう。


「マイン、衝撃波ってどう使うの?」

「ただ一言、《破鎚はつい》と叫んで柄を握りしめてください!」

「わかった!」


 鋼牛鬼は直線的な動きだ。急ブレーキは効かないようだから、跳ね飛ばされる覚悟で行こう。

 方向転換する、一瞬の隙のタイミングで……!


「《破鎚》ッ!!」


 なにかが弾け飛ぶような高い音の後に、腹に響く轟音が辺りに轟いた。

 鋼牛鬼の叫びもまた、鼓膜を震わせる。


「────!!」

「っぐあ!!」


 衝撃波は、俺の腕にも大ダメージを残していった。

 しっかり踏ん張って持っていたというのに、腕の骨にヒビが入った感覚があった。指にも影響がいってそうだ。

 ルビーの魔石で身体強化しても、これか……。今の俺にはデカすぎる反動だな。


『我が王、エメラルドを!』

「舐めてる、場合じゃ、ない!!」


 まだ鋼牛鬼は生きている。

 まだ腕は折れてない、ここでもう一発、ぶちかます!!


「《破鎚》!!」

「────!?!?」


 俺と鋼牛鬼の骨が砕ける音と共に、鋼牛鬼は沈黙した。

 俺は右腕が完全に折れ、左腕も軋んでいる大怪我だ。死ぬより痛い。


「うううううっ!!」

『エメラルド、エメラルドを!』

「はーっ! はーっ!」


 なんとか左腕でエメラルドを掴み、噛み砕く。

 もったいないとか、言ってられない痛みだった。

 すぐ、腕の痛みや赤さが引いていく。


「っはぁ〜……」

『我が王! 大戦果です! 危険度A+をこの短時間に二体も!!』

「クッソ痛い……」


 こんな、数分歩くだけで大怪我の連発とか……最悪だよ、200階層。

 これからの探索にすごい不安が湧いてきた……。

 

 とりあえず、マインの衝撃波はしばらく封印!

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