4:梯子の糸
『我が王……流石にこれは、無茶ではありませんか』
「うるっ……さい、ぞ」
オレは今、梯子を登っている。
いや、ハシゴというか、線路を登っている。
崩れ落ちた坑道が、線路が、まるで梯子のように垂れ下がっているのだ。捻じ曲がったレールでも、木版に手足をかければなんとか登れそう。
ということで、これで数階上がれないかと挑戦しているわけだ。
『それこそ落ちたら死んじゃいますよ! 宜しいのですか?』
「だって、ここには何故か魔物がいないけど、この穴から湧いてくるかも、しれないし……さっさと上がって危険度を少しでもっ、下げておかない……と」
『数段程度では違わないとさっき仰っていたではありませんか! 我が王、大人しく200階で修行しましょう!』
「いやだ、うえのかいいく……うわぁ!?」
足をかけた瞬間に木版が外れ、オレは落下し背中を地面に叩きつけた。痛い。折れてはいないけど、とにかく痛い。
あと、なんだか頭にヌルッとした感触があるような……。
『後頭部から流血を確認。治療いたします』
「え、わ、うわわ」
どうやら頭から血が出ているらしい。打った時に切れたのかな。
マインの声で、周りにあった鉱石やポッケに詰め込んでいた屑鉄があっという間に身体に吸収された。身体に鉱石が吸い込まれていく様はまるでスライムになった気分だ。
あっというまに止血され、傷が塞がり、元通りになる。
「マイン、お前の力ってすげーんだな……」
『ワタクシの中央にありますトパーズは、魔石としても最上級のものですから! こんなこと、チョチョイのチョイ、でございます』
魔石というのは、魔力を蓄えた鉱物のことだ。
鉄や真鍮はよく魔力を通すので、簡単に魔石になる。その分魔力の質は悪いけど……。
逆に、魔力を少しずつ貯めていく宝石たちはその純度や質で「最上」「一等」「二等」「三等」に分けられる。
きっとこのトパーズは最上の魔石だ。
魔石は時折り魔法も宿している。そういうのは魔法石として、より価値が高まる。
『ワタクシの魔石に込められているのは《癒し》と《修繕》。鉱石を消費して補修するのは、本来ワタクシ用なのですが……鉱角人には強い回復効果となるようですね。性質が近いからでしょうか』
「鉱角人って鉱石に近いの?」
『鉱石と共に生きる種族ですから。鉱石さえあれば命を繋げることができるでしょうし、肉より石の性質をしています』
ふにふにと自分の二の腕を触ってみるけど、普通に柔らかい。石の性質って言われてもよくわかんないや。
『肉は断ち切られると繋がらず、腐る。石は断ち切られても繋げられ、腐らない。ということですよ』
「うーん?」
オレ、孤児院のからだの授業サボってたからわかんねーや。まぁそんな体なんだ、オレ。へー。
「ねぇねぇ、このダンジョンについてもっと教えてよ」
『と言っても、ワタクシも全てを知っているわけではありませんよ?』
マインから聞いた情報は、ここ「
地上から上は坑道が作られるほど安全。
しかし地下からは魔物ひしめくダンジョンとなり、侵入者を拒む。
10の倍数ごとにフロアボスがいて、それとは別に十何階をまとめて縄張りにし、うろついているエリアボスがいるそうな。
例えば、10〜20階層には大きなキノコを背負った
うろうろと無作為に階層を行き来し、その強さは20階層相当。つまり20階層で戦う敵が急に10階層に現れる事になる。
大きな力を持つ分おとなしいやつが多いらしいけど、襲われた時にはそれはもう大変なんだって。
そしてそれは200階にも当然いる。やはりここがオレの死か?
『200階層のエリアボスは今100階あたりに上がっていってますから、しばらく会うことはないかと』
「100階行ってるの!? 行動範囲ヤバ! 怖すぎる……」
『エリアボスがいないうちに、どんどん強くなりましょう! 我が王ならできますよ』
そう言われてもさぁ……鉄鉱を頬張りながら、振り出しに戻った状況を考える。
200階層ならいつでも行ける。すぐ横に道があるから。しかし200階の魔物と戦える気がしない。
うーん……あ、そういえば。
「鉱角人って鉱石を食べれば強くなるんだよね? それを試したいな」
『そこに気がつくとは、天才でいらっしゃる! 鉱角人は特定の魔石を食すことで魔法にも似た力を得ることができます。その魔石を探すのも、また一つの強者への道でしょう』
「でも、魔石ってどうやって探すんだ?」
『お手持ちの万能ツルハシをお忘れに?』
あ、そっか。マインで掘るのか!
採掘して、魔石を食べて、強くなる!
よしその方針でいこう。
なるべく掘りやすそうな場所は〜っと、ここだ!
このいい感じに土の密度がありそうな、ここ!
『確かに、魔力の気配を感じます……! 掘ってみましょう』
「うん、……せやぁ!」
カーン!
ツルハシの小気味いい音が大穴に響く。
マインを一振りしただけで、ガラガラと大量の岩が崩れた。
威力が、普通のツルハシを超えている。そりゃわかってたけど、オレの手に余る破壊力だ。
「も、もう少し弱く……ほいっ!」
ガラガラと崩れていく土と岩の壁。
ザクザク、ザクザク、掘り進んで……出てきたのは、硬質な爪を持つモグラだった。
……モグラじゃん! しかも魔物じゃん! マインの嘘つきぃ!!
『ま、魔力反応を読み違えたようですね……。「
「こ、こんな覚悟できてないってぇ!」
襲いかかってきた鉄土鼠の爪を咄嗟にマインで受け止める。
それだけで、鉄土鼠の爪が半分に欠けた。なんて硬度だ!
体勢が崩れたところを、思いっきりマインで、潰すように振り下ろす。
「──!!」
言語化しづらい断末魔をあげて、鉄土鼠は沈黙した。
潰れた内臓が、足元に広がる。その鉄臭い匂いに、オレは顔を顰めた。吐き気を誘う匂いだ。
『初勝利おめでとうございます! 我が王!』
「た、ただマインを振っただけだよ……」
『鉄土鼠はどこの層にもいるので、最初に出会ったのがこの魔物で良かったかもしれませんね』
鉄土鼠はどこまでも土を食べながら掘り進めるから、階層関係なくいるんだっけ……。危険度は高くなかったはず。たしかDくらい。
でも、初めて生き物を殺した。虫とかじゃない、赤い血の通った体温のある生物を。
「……ちょっと、気持ち悪いかも」
『こればっかりは慣れですよ我が王。採掘家はこれを日常的にやっております』
「そう……だね……。あ、魔核、取らないと……」
魔物は魔核という器官を持っている。胆石のように、体内に石があるのだ。心臓の真横にあるそれは、その魔物の魔力を蓄えている。今回は小さな親指の爪程度の魔石だが、これが両手で持つほどや一抱えになると、かなりの額で売れる。
「そういえば、魔核も食べられるの?」
『魔核は鉱石ではないので、無理ですね』
「そうなんだ……まぁ不味そうだしいいや」
独特の獣臭と血の匂いが混ざってて、嫌な感じだ。オレはそれを服の内ポケットに入れた。外ポッケには鉄鉱や銅鉱を一口サイズに砕いて入れてある。飢えたくないから沢山持っておくのだ。
「よし、もう一度掘るぞー!」
『その息です、我が王!』
ざっくざっくと掘り進め、目指せ魔石目指せ強化!
魔物は全員、お家に帰れ!
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