1-3
ネファーシャル子爵たちとこんな風に関わり会話をしたのはこの一週間が初めてかもしれない。
「どうか
「お前が魔力なしの役立たずで、アデルではないとバレてしまえば我々の立場が……! それだけは
とても家族とは思えない発言だが、前世の記憶があるおかげで精神状態は良好だ。
マグリットは、この二人を両親だと思ったことはない。
今でも記憶の中にある祖母と祖父が育ての親である。
しかしこの子爵邸で十六年間、タダ働きではあったがお世話になったのは事実だ。
もう一度言おう。今までタダ働きしていた。
マグリットは言いたくないと抵抗する
「今までありがとうございました。お世話になりました。さようなら」
せめて
「そうだ 今まで世話をしてやった恩を返す時だぞ よく覚えておけっ」
「ガノングルフ辺境伯にアデルではないとバレたら、全部魔法を使えない自分が悪いと言いなさい いいわね」
「…………」
言い返したところで無駄なことを知っているのでマグリットは黙っていた。
マグリットはモヤモヤした気持ちのまま迎えに来た馬車に乗り込んだ。
マグリットだってある程度の知識はあるし、いつでもネファーシャル子爵家から逃げ出して平民になることだってできた。
何故、使用人として他の屋敷に雇ってもらうことをしなかったのか。
それはマグリットの親権を持つネファーシャル子爵の許可がなければいけなかったのと、食材の研究に
好きな材料を買って、料理方法を
日本食に近い味を探しながら調味料を造る実験をしていた。
ネファーシャル子爵たちに
賃金はもらっていないが、食材の仕入れをマグリットが行っていたので自由だった。
唯一、キッチンの権限はすべてマグリットが握れていた。それだけでマグリットがここにいる理由としては十分だった。
その代わりマグリットがいなくなり、ネファーシャル子爵家は困り果てることだろう。今まではかなり節約しながら料理を作っていた。
すぐに料理人を雇わなければならないし、あの様子ではレイも屋敷から出て行ってしまうに違いない。
そうなれば状況的には最悪だろう。お金もないのに屋敷の掃除や洗濯、料理を誰がやるというのか。
(きっと、
マグリットは子爵たちの言う通り、大人しく嫁ぐつもりは
それにガノングルフ辺境伯が腐敗魔法を使えると聞いて、あることを思いつく。
マグリットは自分の夢を
王弟ならば大層
ガノングルフ辺境伯に
実際はガノングルフ辺境伯が結婚にまったく前向きではないということも知らずに、マグリットが持ってきたのは数冊のノート、レシピ本と愛用の料理道具、多少の服だけ。
なんせガノングルフ辺境伯領までは遠い道のりとなる。
マグリットは三日かけて辺境の地へと向かうのだ。
とにかくコルセットが
御者が「天気が崩れると思ったのですが、運がよかったですね」と言った。 マグリットが空を見上げると雲一つない青空が広がっている。
御者はガノングルフ辺境伯に雇われているわけではなく、王家から手配された人のようだ。
(海の匂いがするわ。やっと、やっと生魚が手に入るのね!)
王都は内陸部にあり、保存もできないため生魚は売っていない。
出回ったとしても干したカピカピな魚で、
ガノングルフ辺境伯領は海の近くということでマグリットは期待していた。
馬車が
(本当にここがガノングルフ辺境伯邸(てい) ……?)
そこには古びた屋敷があり、柱や
周りを
(なんだか想像したのとは違って……まるで、お化け屋敷みたいね)
マグリットは大きな荷物を持ちながら足を進めた。
大きな扉の前に立ち、
すると扉が開き、目の前に現れた人物を見上げた。
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