第一章
1-1
書には、聖なる力が宿る。
文字には、まずは
これは、そんな世界の物語だ。
建国より三百余年を数える、西の大国ロッドガルド。
王都オセルを見下ろす小高い丘の上、この世の全てのはじまりとされる聖典『創世の
アリアセラ――アリアは、そこで暮らす
広大な
「ごきげんよう、アリアセラさん」
コツコツとブーツの
「ごきげんよう、みなさま」
対するアリアは、
同じ色のまつ毛は
その様子を横目で見やりつつ。巫女見習いたちは、羽根ペンを紙に走らせる手を止めて、こそこそと
「アリアセラさん、今日もとっても
「でも、あんまりに無表情で、話さないし……正直、少しだけアリアセラさんって苦手なの。いい人なのは知っているのだけれど。とっつきにくくて、
「わかる。
「聖女候補の筆頭って話だしね」
アリアは、このロッドガルド大神殿で、ちょっと
実力や容色、素行もさることながら。何より、いつでも
「ねえ知ってる? アリアセラさんって、やんごとない身分のお姫様なんですって! 実は王家の
「今は、ジークフリード
「わからないけど、ひょっとしたら……ね」
「お気の毒に」
(こそこそ言ってるけど、聞こえてますって)
根も葉もない
(お姫様なんてとんでもない。残念ながら私は、ド平民どころか親もいない、
雑音を気にせず、アリアは
ちなみに聖典の転写は、いわゆる
なぜなら、神殿のように、人々の
神官や巫女は、全てが聖術の使い手で、聖典の管理者だった。
聖術の力には法則があり、場に集まった聖気の
な文言を引用すれば、それだけ大きな技が使える場合が多い。
ただ、単純な量のみの話でなく、聖句それ自体の
ちなみに全ての聖典には、『創世の稀書』と呼ばれる長大な原典があるが、半ば伝説と化し、現在の所在は不明である。各国に伝わっているのは、全て写本に過ぎない。
果たして『創世の稀書』の原典に直接
原典から直接書き写された第一写本には、
ロッドガルドでは紙の原料となる木材の生産が
『我が声は
もう何千回と書き写したか知れない、元章一節目
後ろで噂話に花を
「そんなことより。ねえ聞いた!? 来週、とうとう『名もなき様』の新作が出るって!」
「知ってるわよぉ、もうみんなその話題で持ち切りだもの!」
(!)
「もう半年も新刊が出ていなかったから、
「待ってた
彼女たちのはしゃぎように、何食わぬ顔を
(えへへ、待っててくれたんだ)
神殿のような、
日々を修行と聖務の
彼ら彼女らは、貧民窟出身のアリアとは違い、貴族や商家など
そして、そんな禁欲的な
娯楽本の書き手は、通例として本名を明かさない。『エリザベート』や『ベルナデッタ』など、古風で
書き手になりたければ、目星をつけた
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