かりそめ聖女は今日も王太子(推し)に求婚される 私との結婚は【解釈違い】なのでお断りします!

夕鷺かのう/ビーズログ文庫

プロローグ


 ジークフリード・イーライは、アリアが十九年の人生で出会った中で、ちがいなくもっとも美しい青年だった。

 おんとし二十二。柘榴ざくろひとみにはほのおせんれつさが宿り、しっこくの髪には夜の静寂しじまを秘め。何より、はくせきの顔立ちには神のみわざの優美さがある。いや、よくぞこんなぞうさくが生まれ出たものだと、世の神秘にちょっと思いをせてしまうほどに。

 おまけにこれで、えあるこのロッドガルド王国の、王太子殿でんだというのだからおそる。さらには容姿がいいだけでなく、王国史上類を見ないほどゆうしゅうだとか。向かうところ敵なしだ。

 ――ちなみに彼のことなら、アリアはよくよく知っていた。

 情報だけなら、それはもう。


「ロッドガルドだいしん殿でん見習いアリアセラ。……改めて、君に願いたい」


 その美しくもそうめいな王太子殿下が、よりによって自分を訪ねてきた。それだけでも、十分たまげるというのに。

 彼は、いみじくもごそんがんを拝したてまつってかしこみ畏み正直今すぐとうぼう申し上げたいアリアに対し、かたひざをついてうやうやしく手を取り、こんなことをのたまうのである。


「君が、今まで会ったことも話したこともない俺について一方的なもうそうめぐらせて書きつづったという小説本三十冊、あとは他作家の手になる作品群のしゅうしゅうぶつ、合わせてめて二百冊。全部読み切っても俺が君にげんめつしなかったら、このきゅうこんを受けてくれるか?」


 そとづらばかりは鉄の無表情をつらぬきながら。内心、アリアは白目をいていた。


(待っておかしい……)


 我が国くっの尊きおかたに、何を言わせているんだ。いや、むしろ何言ってるんだ、この人が。

 本当に、どうしてこんなことに。――実はその始まりは、つい先日の話である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る