第5話初めての宇宙
「準備はいいですか、澤村さん」
管制室から佐々木カナの声が響く。ミライは訓練用シャトルの中で大きく頷いた。今日は初めての宇宙空間訓練だ。
「心配しないで。すぐそばにいるから」
アリスが隣席から声をかける。助手席では、タクミが黙々とチェックリストを確認している。
「発射30秒前」
カウントダウンが始まった瞬間、ミライは小さな写真を胸ポケットに納めた。中村先生との天体観測の思い出。
「10、9、8...」
「あの、私、一つ忘れ物を...」
「掃除道具なら禁止だ」
ケンイチの声が通信機に響き、ミライは小さくため息をついた。
「打ち上げ!」
加速のGで体が沈み込む。窓の外の景色が rapidly に変化していく。そして―
「これが...宇宙!」
青い地球が目の前に広がっていた。思わず息を呑むミライに、ルナが優しく語りかける。
「美しいでしょう?でも、この景色の中に、たくさんのデブリが...」
画面上に無数の点が浮かび上がる。宇宙ゴミの位置を示すマーカーだ。
「じゃあ、そろそろ実践訓練を」
アリスの声で我に返ったミライは、C-GEARを起動させた。しかし―
「あれ?なんか、変な感じ...」
無重力空間での動きに戸惑い、ミライの体が回転し始める。
「落ち着いて。掃除のときのように、優しく...」
ルナのアドバイスに、ミライは目を閉じた。教室の隅々まで丁寧に埃を取る時のように...。
その瞬間、不思議な感覚が体を包んだ。
「これ、まるで...ほうきで掃くみたい!」
「あ、これは...」タクミが初めて食い入るように画面を見つめる。
ミライの動きが変わった。まるで無重力空間で舞うように、自然な流れで小さなデブリを回収していく。
「掃除と同じ感覚で動けば...」
「そう、その調子!」アリスが声援を送る。
訓練用デブリの回収率90%。初回としては驚異的な数字だった。
「彼女、思わぬところに才能が...」
管制室のケンイチが腕を組みながら微笑む。しかしその直後―
「あ、窓が汚れてる!拭かないと!」
「おい、まだシートベルトを...」
「きゃーーー!」
再び宙返りを始めるミライ。慌てて止めに入るアリス。冷静にデータを取り続けるタクミ。
その様子を見ながら、佐々木部長が苦笑する。
「まったく、変わった新人が来たものね」
「でも」ケンイチが続ける。「彼女なら、きっと宇宙を変えられる」
宇宙空間に浮かぶシャトルの中で、ミライの新たな才能が目覚め始めていた。たとえ、まだ少しドジを踏むことがあったとしても。
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