第4話宇宙服と掃除道具




「今日からC-GEARの実践訓練を始めるが...」


ケンイチの言葉が途切れた。目の前のミライが、巨大なボストンバッグを抱えて現れたからだ。


「それは...何だ?」


「掃除道具セットです!」


ミライは誇らしげに言うと、次々と道具を取り出し始めた。雑巾、ほうき、ちりとり、さらには最新式の小型掃除機まで。


「宇宙空間で使うとは言ってないだろ...」


「でも、C-GEARも宇宙服も、メンテナンスが大切ですよね?」


その言葉に、整備班の藤堂が興味を示した。


「ほう、君はそう考えるのか」


実は藤堂は、C-GEARの微細なゴミによる動作不良に頭を悩ませていたのだ。


「見せてもらおうか、その道具たちを」


訓練の前に、整備室での特別レッスンが始まった。ミライは丁寧に掃除道具の使い方を説明する。その横で、サポートトリオが熱心にメモを取っている。


「このブラシは静電気を防ぐ特殊な繊維で...」


「へぇ、それって機器の清掃に使えるかも」


キーちゃんが目を輝かせた。バッくんは既に計算を始めている。


「清掃効率15%向上の可能性あり」


その時、アリスが訓練室から顔を覗かせた。


「みんな、大変!新型デブリの実験で、制御装置に不具合が...」


慌ただしい空気が流れる中、ミライは立ち上がった。


「このブラシ、使ってみませんか?」


制御装置の微細な埃を丁寧に取り除いていくミライ。その手際の良さに、タクミも作業を止めて見入っている。


「ほら、これで...」


最後の一拭きが終わると、装置が正常に起動した。


「まさか掃除道具で解決するとは」


ケンイチは苦笑しながらも、確かな手応えを感じていた。


「でもでも、まだまだ私の掃除道具コレクションは始まりです!実は他にも...」


「いや、それは...」


ミライが次々と取り出す道具たちに、チーム全員が困惑の表情を浮かべる。しかしその中で、ルナだけが嬉しそうに微笑んでいた。


「ミライ、その探究心、きっと宇宙でも役に立つわ」


「本当ですか!?じゃあ、この特注の長柄モップも...」


「それは禁止」


全員が声を揃えた。


訓練室に笑い声が響く中、藤堂は静かにメモを取っていた。


「掃除道具による機器メンテナンス...これは面白い発想だ」


その日から整備室には、ミライ印の掃除道具コーナーが設置された。彼女の「掃除魂」は、思わぬ形で宇宙開発に貢献し始めていた。

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