第2話 人でも猿でも魔人でも、愛はひとつとは限らない。
~前回のあらすじ~
前回、近くの山から立ち上る自分にしか見えない黒いモヤを求め、山を登った鈴木歩。
そこで出会ったアタシンという魔獣の流す血があの黒いモヤだと判明し、アタシンと共に山から逃走。
その後、何故かアタシンと顔見知りの様子な文司満有に連れられ、とあるカフェへと向かった。
雰囲気がどこかレトロ感を感じらる、黄、オレンジ、黄緑、赤で彩られた店内は、お洒落な個人経営のカフェって感じがした。
「で、説明してくれるんだよな?マユとアタシンについて」
「私達のことがそんなに知りたいのぉ?全く、歩くんってばプレイボーイ♡」
何言ってんだコイツ
「我は歩の知るとおり七つの魔人と呼ばれた者達の最後の生き残りだ。今は訳あってこんな姿になっているが、元はアリスを超える絶世の美人だったんだからな。」
「おやおや、私を超えるとはなかなか大口を叩くねぇ。」
「で、マユは?さっき怠惰の魔人がどうとか言ってたけど」
「そう、私は怠惰の魔人。まぁ今は転生を果たして一般人とそう変わりないけどね」
いやさっきの魔法を見る限り全然一般人ではないと思うが
「ていうかそもそも、魔人って人間なのか?授業でも魔人についてあんま習わねーからさ。」
習うのはほとんど「英雄」についてだけだし。
「んー…まぁ、人間だね。分類上は。」
「?分類上ってどういう意味だよ?」
「君は魔族を知っているかな?」
「あぁ、果ての都に住んでるっていう種族だろ?」
「そう、魔族も特性が違うだけで人間と類される存在だ。私達魔人は元々、人間として生まれながらも魔力量が人間よりも魔族よりも多く、その実力故に神同様に崇められていた存在なんだ。」
「神同様に崇められていた…?じゃあなんで世界を滅ぼそうとしたんだよ。」
コツコツ…
「それは私達の知るところじゃあないねぇ」
「むしろその件は我々も被害者だ。」
「は?被害者?」
「あれは私達の意思であって私達の意思ではないから」
「我もこの世を愛する一人の人間だ」
「んー…話が難しくて全然話がわからん……」
コツコツコツン、
「お待ちどうさまです~!クリームソーダ三名様…」
お団子結びの和風メイド娘が、アタシンをじっと見つめている。
「…二名様と一匹様!お持ち致しました~!ごゆっくりどうぞ~!」
「どうも~」
「……」
アタシンの形相がえぐい。すげぇ怒ってんなこれ…いやわかりやす!!出会った時の印象が跡形も残ってねぇよ…
ズズズズズズ…
「で、他に聞きたいことは?」
「…お前らは、また世界を滅ぼそうとするのか?」
「いいや、私達にそんな気はない。サラサラ全然全くない。」
「そうか、じゃあもう質問はないわ」
「え、本当にもうないの!?」
「うん、気になることはだいたい聞けたし、もういいかなぁ」
「歩は馬鹿だな、せっかくなら運命の相手とか聞けばいいのに」
「いやそれ分かるのかよ…聞かねーけど」
「ふふ、君は面白いね。…最後に、私からも質問をさせてくれ。」
"君は"……
「…君は、私達のことを英雄科や国に告げ口するかい?」
パチクリ
予想外の発言につい目を見開いてしまう。
「…しねぇよ、する気ねぇ」
「そう…君はとても優しい青年だ、私が出会った中で一番優しい青年かもね。」
プハッ
アタシンはクリームソーダを飲み切って笑う。
「いや優しいってかお人好しってだけだろコイツぁ」
「んだとこの狐っころ~」
コメカミに拳をグリグリと埋める
「痛い!痛いぞ歩!魔獣虐待!」
「ていうか、結局お前どうすんだ?人型になれたりしねえの?」
「元の姿に戻るにはいくつかの条件をクリアしなくてはならん。しかし、我一人ではなかなか突破できそうにない…」
「何か手伝えばいいのか?」
「お前本当にお人好しだな、ホントに素か?」
「歩くんは裏でモテるタイプだねぇ~」
「そ、そっすか…」
照れる。
「照れるな」
理不尽。
「まぁ我はアリスのところで世話になるしかないだろうな」
「いや私君を養う気ないからムリだね」
「えっ」
「エッ」
「なんでだよ!?てかそしたらどうすんだよ!?このままだとアタシン家なき子になっちまうぞ!?」
「君が養えばいいじゃあないか、「一緒に逃げよう♡」なーんて熱烈なプロポーズまでしたんだし」
「だからあれは…!!」
「歩ぅ~……」
「あ?…ハッ!?」
鱗狐のアタシンは俺にそのフワフワとした頬や耳をスリスリして、上目遣いでねだってくる。
「ダメか……?」
「くっっっ!!」
結局、俺の寮で引き取る事になりました。
あんな可愛いオネダリされたら、動物好きな俺でなくとも折れると思う。うん。
朝、一般科A組。
「は~~~」
昨日は寮でアタシンを飼う為に寮長に徹夜でスピーチしたからな…ドッと疲れた…
「お疲れさん。てか歩、アイツ(アタシン)知り合いの魔獣使いから引き取ったって言ってたけどよ、お前にそんな知り合いいたんだな。」
「おう…」
「魔獣使いって、やっぱ美女か?」
「おう…」
「…俺の雄っぱい揉むか?」
「おう…」
「ダメだぁこりゃあ」
ガラガラガラ…
「さぁさぁ諸君!席に座りたまえ!」
「「誰だよ!?」」
「はっはっはーっ!誰だとはご挨拶だな!俺はお前達の熱血担任、
「「だから誰だよ!!」」
「あの「ヤニカス・酒カス・パチンカス」のカス三拍子の称号を有するカスセンが…!!」
「今まで五百人以上の女性に振られついに男に目覚め始めていたあのカスセンが…!!」
「お前ら後で職員室来いよー?」
「どうしたんすかカスセン!?あ、風邪っすか?でもバカは風邪ひかないって言うしな…」
「いや、バカは風邪ひかないんじゃなくて風邪ひいたことに気付かないだけらしいぞ…?」
「お前らいい加減にしろよー?」
「今日は転校生が来ているからな。先生もつい浮かれちまったんだ。」
「カスセンー転校生早く出せよー」
「イケメンー?ねぇイケメンー?」
「いや美少女!絶対美少女だと思う!」
「えーイケメンがいい~」
「……」
「?どしたん歩?」
「なんか、さっきから嫌な予感がすんだよな…」
「嫌な予感?」
「うん…なんか、なんか……」
何故か言葉にできないけど、嫌な予感がする……
「はーい、じゃあそんな転校生の登場まで~?3、2、1、どうぞ!」
そうやって登場すんのかよ!?
「失礼します。」
俺の勘は……当たっていた。
青紫色の花束をそのまま詰めたような鮮やかな瞳、爽やかな藤色の長髪…
「はじめまして。
「「「「……おぉ」」」」
みろよみんなマユに見蕩れてやがる。
「美少女…いいかも」
目覚めるな目覚めるなそこの女子
「三次元の美少女も…いいでやんすね」
誰だお前二次元の美少女グッズ持って何言ってんだ
あ~もう嫌な予感的中だよ!!
これ絶対めんどくさい事になるじゃねーか…!!
「くァ~~~~~~…」
「歩くんなんだいその失礼な鳴き声は」
「えっ鈴木くん知り合い!?」
「なんですと!?ちょっとちみ達いったいどんな関係なんだね!?」
「私の歩くんの関係…?それは……
きゃー恥ずかしい♡」
「変な誤解生みそうなんですがマユさん?」
「冗談冗談、彼とは昨日私が学園内を見学していた時に出会ってね。」
「えっじゃあ昨日歩が言ってた美少女って満有ちゃんって、こと!?」
「!そうだよ~?私がその美少女だよ~♡」
「ちょ、なんでこっちみてくんすか、やめてください…」
昨日美少女美少女と言っていた自分がなんだか小っ恥ずかしくなり、つい目を逸らしてしまう。
「じゃあ学園内の構造はもう完璧にマスターしてるってわけね、なんだぁ学園案内しようと思ってたのにぃ」
「マユちゃそ…少しいいですかな?」
「ん?なんだい?」
「その…その……ぼぼぼくの背中に、サササインしてはくれませぬか!?」
クラスの勇気溢れるヲタク、
何してもいいから、とりあえず、俺の机の前でやんないでほしい。みんな集まりすぎだから離れてほしい。(切実な思い)
「…そんなに私と契約したいのかい?」
「ん?」
「まぁそこまで言うなら考えない事はないが条件にもよるかな」
「ん?ん?」
「例えば右腕を差し出す代わりに───」
「ストップ!ストップマユ!廊下、いったん廊下出ようか!?」
「───つまり、アイツは背中にマユの名前を書いて欲しかったんだよ。」
「ふーむ、なぜそんな無意味な事をするのか、疑問だね」
「お前らの時代にはなかったかもしれねーけど、今は"ヲタク文化"っていうものがあってだな……」
「ヲタク文化、なるほど。今度勉強してくるよ。」
「おう…まぁ……そうしてくれ」
「…あ、そうだそうだ、私この後職員室に呼ばれてるんだった。じゃあ私はこれで失礼するね」
「おう、いってら~」
…マユ、人気だな。あんな美人ならそりゃ皆があぁなるのも分かるが。
学園の中庭。
バサバサバタタッ!!
後ろから何かが崩れ落ちるような音がした。
「!?大丈夫か!?」
俺は駆け足でその子の元へ向かう。
「う、うぅ~…」
「立てるか…?」
「ひゃい…」
毛先の方へいくにつれ桃色から赤色になるサラサラの髪に、雲ひとつない快晴のようなライトブルーの瞳。
「か、かわいい…」
「え?」
「いやいやいや!なっなんでもない!です!」
「?…あっ、先生から貰った資料がバラバラになっちゃいました…すみません、拾うの手伝ってもらってもいいですか…?」
「全然いいです!!了解です!!」
彼女はこの学園の誰もが知る学園一の美少女、
ちなみにマユは彼女の"かわいい"とは少しベクトルが違った…"綺麗"な美少女だと俺は思っている。
…って!何言ってんだ俺恥ずかし……!!
「あの、ありがとうございました。」
「いえいえ…」
「あの、お礼を…」
「いやいやいいですよ!普通のことしただけですし!」
「でも…」
「歩くん!」
「!マユ!」
「歩くん、そろそろ授業が始まる時間なのに、いったいここで何してたんだい?」
「あー俺先輩の手伝いしててさ」
「そうなんだね。…で、その先輩はどこだい?」
「え?」
キョロキョロと辺りを見渡したが、既に李先輩の気配はなくなっていた。
「…あれ」
さっきまでそこにいたのに…先に帰ったのか?
「君が鼻の下伸ばしてるのに気がついて逃げ出したんじゃない?」
「ンなわけあるか!…ねーよな?」
「不安げなの笑えるね」
「うるさいな~」
そんな軽口を叩きながら教室に戻る。
放課後。
「ア~~~なんかすげー疲れたァァ……」
「お疲れ様。どうだい?またあの店でお茶でも…」
「満有ちゃ~ん!今日よかったらあたし達と遊びに行かない!?」
「え?いや私は」
「いいじゃん行こうよー!」
「まゆっちとプリ撮りたい~!」
「あっ、ちょまっ…!」
あ~れ~って感じでマユが女子軍団に連れ去られる。
「…人気だなぁ」
「いいなぁ俺も満有ちゃんとデートしたい」
「そうでやんすな」
「お前らなぁ…」
…とりあえず帰るか、疲れたし。
──────
下校路。
…そういやアタシン、ずっと寮で待ってるんだよな…暇だろうな……
…うっし、なんか買って行ってやるか。
「君が、鈴木くんだね?」
「?誰っすか?」
英雄科の制服…?
…なんか薄気味悪いっていうか、胡散臭い笑顔だな…
「あぁ警戒しないでくれ、僕は君と仲良く…なりたいんだ。」
「はぁ……」
?どういう事だ?なんか怖ぇし早く離れ…
ガシッ
離れようとした鈴木歩の腕を掴む。
「いたっ…」
「逃げないでおくれよ…僕は君と、君とも仲良くなりたい…だけなんだ。僕は優しいからね」
「は?何言っ」
「《スリープ》」
「なっ…」
強制睡眠魔法!?なん…で……?
バタッ…
──────
「くァ~、歩のやつ、やけに遅いな…」
アリスに聞いてみるか。
「きゃーんまゆっち激カワなんですけど~!」
「チョー似合う!マジかわいい!」
「こっちのリボンも着けてみ?」
「うわーカワイー!世界一可愛いわ、てか綺麗」
「あ、ありがとう…」疲れた…
ビーガガガ、ガガ…
「!」
「《アリス?アリス聞こえてるか?》」
「《ああ。聞こえているよ。どうしたんだい?何かあったのかい?》」
「《いや、今日は歩の帰りが遅いなと思って、少し気になっただけだ》」
「《歩くんまだ帰ってないの?》」
「《あぁ。あの激弱生体の歩がこんな時間まで帰ってこないとなると、少しだけ心配でな。》」
「《アタシンってば、歩くんのこと好きすぎだねぇ~》」
「《うるさいぞ》」
「《今日歩くんに同じ事言われた》」
でもこの時間まで帰ってないとなると……
「《ただ単に寄り道してるって訳でもなさそうだね。私も少し心配だ。こっちでも少し探してみるよ。》」
「《あぁ。頼んだ。この姿だとどうも動きづらくてな……》」
「《そうだよね、私もアタシンが早く元の姿に戻れるよう手伝うから。》」
「《ありがとう》」
ブツッ……
「…歩くん、」
《続く》
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