第2話 クールな美少女
俺は自宅に少女を迎え入れた。
あれだけ走ったにも拘らず、足には傷一つ付いていないし息を切らした様子もない上、寒がってすらいないと思う。
だが、濡れたままの状態は依然として継続しているので、風邪でも引いたら大変だ。
「濡れたままだと風邪引くし、風呂場貸すからシャワー浴びて体洗ってきなよ」
「大丈夫よ、慣れてるから平気」
慣れてるとは?
よく意味が分からないが、びしょ濡れの状態で家を汚されても困るので、先ずは風呂場に案内して着替えてもらうことにした。
しかし困ったな。
女性用の着替えなど持っているはずがない。
女性を招き入れたことすらなかった俺に取って、身寄りの無さそうな少女を連れ帰るのは少々難易度が高かったかもしれない。
「ごめん、ちょっと待ってて。今着替え持ってくるから」
洗面所のドアを閉めて服を取りにいく。
今日だけは男物のパジャマで我慢してもらうしかないだろう。
元々スウェットみたいな格好だから特に気にしないとは思うが、やっぱ普段俺が着てる服って考えると嫌がる可能性はあるよな。
下着まで水が浸透してないことを祈りつつ、洗面所まで持っていこうとしたのだが————。
…………!?
(えーっと、うん、何をどうすればこうなるのか誰か教えて欲しいのだけど……)
俺は目を疑った。
とてつもなく反応に困っている。
何度も執拗に目を擦ってみたが、現実は何も変わらなかった。
……俺は今、とんでもない光景を目の当たりにしている。
『そんな顔してどうしたの?』
「それは俺のセリフなんですが……」
『??』
「一つだけ、つかぬ事をお聞きしてもよろしいでしょうか……?」
『どうぞ』
「服はどうされたのですか……?!」
『濡れた服を着てると気持ち悪いから脱いだだけよ、それがどうかしたの?』
……うん、そういうことを言ってるんじゃないって理解してるかな。
俺が物申したいのは一つだけだ!
何でこの人……
しかも全く動じてないからな。
恥じらう様子すら一切なく、さも当たり前かの様に振る舞っているのだ。
「恥ずかしくないの……?」
『別に、全く。昔はいつも裸だったから特に気にすることでもないわね。ただ、外で脱いじゃうとお巡りさんに捕まっちゃうって教わったから我慢してただけよ』
決定的に何かがズレている。
一般的な女性と比べても感性と教養が圧倒的に欠けているのだ。
『減るもんじゃないでしょ』
そう言って胡座をかいて床にベタっと座る少女。
こんな整った顔立ちをしているのに、この変態っぷりだ。
恥も外聞もあったもんじゃない。
……まあ俺としては最高のひと時で目の保養になっている事実は否定しないけどな。
そして、俺はこの短時間の間に起こった出来事を簡単に回想する。
大雨の中、コンビニの前で佇みながら『ひろってください』と書かれたスケッチブックを持つ謎の女子をギャル男から救い出し、自宅で保護してやることにした。
そして自宅に入るや否や、いきなり全裸になって俺の前に現れた……いきなりぶっ飛びすぎだ。
……俺の予想した展開と大きくかけ離れている。
【⇩妄想⇩】
『怖くて寒くって……だけど貴方に助けてもらって、私……私……嬉しくて、本当に感謝しています。何かお礼をさせては頂けませんか?』
……などといった純愛ラブコメ展開を心の何処かで期待していたのだ。
家で匿ったお礼に菓子折りでも持ってきてくれて、ついでにデートの予定なんか組んじゃってさ。
三回目くらいのデートで付き合い始めてから、手を繋いだりキスしちゃったりとかな。
早い話しが、色々と順序がおかしくないかってことが言いたい訳よ。
だっていきなり全裸だよ、犯される気しかしないって。
……ああ、今日をもって大魔導士卒業の予感がしてきた。
ダメだ。
それはマズい。
俺は真面目で通ってる人間のはずだ。
見ず知らずの少女を連れ込んで行為に及ぶなど言語道断、あってはならない。
例え不可抗力であったとしてもだ。
「わ、わ、分かったから、とりあえず君はシャワーを今すぐに浴びてきなさい。今すぐに!!」
『そうね、ありがたく使わせてもらうわ』
(俺の理性が瓦解する前に早く行きなさい!)
だが思いの外、襲う気はなかったらしい。
俺の童貞は無事守られた。
少女はゆっくりと立ち上がって後ろに振り返り、洗面所へと戻っていく。
健気な後ろ姿……否、あまりにも堂々たる毅然とした振る舞いに敬意を表してもいいくらいだ。
俺は持ってきた上下一式の寝巻きを洗面所に持っていく。
案の定というか、何となく想像はついていたのだが、風呂場のカーテンを開け放ってシャワーを浴びていたので、すぐに閉めた。
水がバシャバシャと跳ねて洗面所に飛び散っている。
後でせっせと掃除をしなければならないこっちの身にもなってくれ。
(はぁ、冷静に考えると、かなりヤバい奴を連れてきてしまった気がするのは俺だけか……?)
若干の後悔を滲ませながらも、少女の脱ぎ捨てたスウェットやら下着やらを洗濯機にぶち込み、ついでに自分の濡れた服も全てぶち込んで容赦なく回す。
男子の服と女子の服を一緒に洗濯していいかどうかの確認……。
そんな瑣末なことは聞く必要すらない、聞くだけ時間の無駄である。
俺は大人しくリビングへと戻る。
ふと無造作に机に置かれているスケッチブックが気になった。
一ページ目を開いてみると、例の『ひろってください』の文言が書かれている。
続けてページをパラパラとめくっていったが、ほとんどのページは真っ白で何も書かれていない。
一番最後のページまで到達すると、何やら漢字で名前が書かれていた。
これが彼女の本名で間違いないだろう。
一ページ目の平仮名と比べると、明らかに筆跡が異なっている。
書き殴ったような文字とは打って変わって達筆で美しい漢字だ。
別の誰かが書いた字だとは思う。
……謎多き少女だな。
黒崎桃香さんについて、もっと詳しく知る必要があるかもしれない。
風呂場から出てきたら色々と聞いてみよう。
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