無人島で育った無知な美少女を拾ってみた
微風
第1話 ひろってください
高校からの帰り道。
地面に激しく打ち付けられる土砂降りの雨。
今日は台風の影響によって、傘を差すのも困難なほどに荒れた空模様となっていた。
人通りはまばらだ。
こんな大雨の中を出歩く物好きはそうそういないだろう。
仮にいたとしても、俺みたいに委員会の活動で通学を余儀なくされた生徒か、土日祭日問わず働かされている社会人くらいなもんだ。
(いやぁ、本降りになってきた、最悪だ。天気予報もあてにならないもんだな)
午後から台風の軌道が逸れていくと聞いていたが、その予報とは裏腹に、徐々に強さを増していく雨と風。
足早に帰宅をしようしていた矢先、傘の骨が突風に煽られて折れてしまったので、仕方なく道中のコンビニで雨宿りをしつつ、傘を購入することにした。
「はぁ、はぁ、久しぶりに走ったからマジで疲れた……」
息を切らしながらコンビニの入り口まで向かう。
壊れた傘を頑張って折りたたみ、入店しようとした時だ——。
コンビニの屋根の下で明らかに場違いな雰囲気の人間が立っている。
(ん、どうしたんだろ、あの人……)
……不思議なオーラを漂わせながら、一人寂しく佇む少女の姿が視界に入り込む。
俺は何故だか少女に目を奪われてしまい、コンビニの屋根の下で雨宿りをしつつ、チラ見しながら考察していた。
(誰かと待ち合わせでもしてるのかな?)
……いや、あの身なりからしてそれはない。
降り頻る雨の影響から、服はずぶ濡れになっており、古着とも思える安くてボロっちい上下灰色のスウェットで寝巻きとも思える格好をしていたからだ。
更に驚くべきことに靴を履いていない。
靴どころか靴下すらもだ。
素足の状態でただひたすらに立っているのだから驚きである。
少なくともこれから何処かへ出掛けるような服装ではないのは確かだ。
それにこの突風と大雨の中、傘も持たずにコンビニの屋根の下で待機している光景は、どう考えてもおかしいとしか思えない。
(だったら迷子なのか……いや、それも違う)
親と逸れてしまう様な幼い子供ではない。
なんなら俺よりも年上の可能性すらあり得る。
黒くて長い髪の毛はボサボサで、所々にアホな毛がピョコンと立っている。
何日か体洗ってないんじゃ……?
身長は低めだが、その貧相な身なりに反して中々豊満な女性の身体付きをしている。
成長するべき箇所はしっかりと発育しているので、食事にすらあり付けないほど貧乏で困っている……という訳でもなさそうだ。
顔が汚れていてはっきりと顔を見ることは出来ないが、おそらくスッピンだと思う。
化粧をしてない状態であれだから、相当に綺麗な顔立ちをしているんじゃないか?
……まあ容姿のことは一先ず置いといて、なにより気掛かりなのは手に持っている
少女は傘の代わりにスケッチブックを両手に持ち、自身の体の前で見開きの状態にして、通り行く人々に見せていた。
通り行く人とは言ったが、この雨の中を歩いている人はほとんどいない。
数名の人は一瞬だけ立ち止まってから、すぐに申し訳なさそうな顔をしてその場を去っていく。
(なんか文字が書かれてるな)
真っ白の紙に、マジックペンで乱雑にデカデカと平仮名で書かれていた文は、たったの一言。
『————ひろってください』
俺は瞬時に察した。
この哀れな少女は捨てられたのだと……。
俺は一人暮らしのアパート住まいだ。
親に余計な小言を吐かられることもないから、この子を連れ帰ることは難しいことではない。
……だがよく考えろ、俺。
こんなあからさまなシチュエーション。
『お持ち帰りして下さい』って言ってるようなもんだ。
既に複数の人間が彼女を避けている。
よくよく考えてもみれば明らかにいわくつき、怪しさしかない。
不用意に手を出そうもんなら、既成事実を無理やり作らされた挙句、多額の金銭を巻き上げられる可能性だって否めないのだ。
それに俺は一介のしがない高校生。
バイトはしているが金銭的な余裕がある訳ではなく、大半を親の仕送りに頼っているような状況だ。
本当に可哀想な捨て子なら、もっと金持ちな誰かが拾ってくれた方が幸せになれるだろうしな。
……コンビニに入って一旦落ち着こう。
俺は店内を無駄にうろつく。
傘以外に特に買う予定もないのに、少女が気になって仕方ないから店内に居続ける。
ふと窓の外を見やると、少女の儚げな後ろ姿だけが相変わらず見えていた。
どのくらいの時間あそこにいるのだろう。
今は十月の始めで真冬って訳じゃないからそこまで寒くはないけど、長時間濡れたまんまってのはあまりにも可哀想だ。
(やっぱり詐欺とかじゃなくて、本当に困ってるんじゃないかな。せめて傘くらい買ってあげてもバチは当たらないと思う……)
今の世の中は生活に困窮している人間が数多くいるのが現状だ。
家庭環境に恵まれなかったが故に、身を寄せる場所さえないのかと思うと、助けてあげたくなるのが正直な心情だ。
よし、決めた。
声をかけてあげよう。
事情をちゃんと聞いてあげてから判断しても遅くはない。
犯罪の匂いを感じたら即座に警察に連絡して終わりだしな。
俺は傘を二本分購入して店を出た。
少女に声をかけようと近付こうとしたが、どうやら先客がいるようだ。
どう見ても真っ当な人間とは思えない外見のチャラ男に絡まれている。
『君、可愛いね。良かったら俺の車に乗りなよ。いい場所に連れてってあげるからさ』
「……」
『どうしたんだ、お嬢ちゃん』
「嫌だ……」
『ああ? 早くこっちに来いって』
「行きたくない……」
『拾って下さいって書いてあるから声かけてやってんのによぉ、俺の優しさを無下にするつもりかよ』
嫌がる少女の手を無理やり引っ張るチャラ男。
必死に抵抗するも、大の男が相手では力の差は歴然である。
「何すんの……」
『ちっ、抵抗しやがって、舐めてんのかこの女。連れ帰って名一杯遊んでやるから覚悟しとけや』
「……」
この一連のやり取りを見ていた俺は、後先考えることなく無意識のうちに駆け出していた。
「おい、離してやれよ、嫌がってるだろ」
『あ? お前、喧嘩売ってんのか』
「その汚い手を話しやがれって言ってんだ、聞こえなかったか?」
『生意気な糞ガキだな。ちょっと痛め付けてやるか』
チャラ男が拳を振り翳してきた。
俺は、過去に少しだけかじっていた格闘技を思い出し、華麗な身のこなしで攻撃を回避する。
そしてチャラ男の股間に蹴りをクリーンヒットさせた。
「どうだ効いたか、俺のローブローは!」
『て、てめぇ、やりやがったな』
チャラ男はうずくまって怯んでいる。
「さあ、今の内に逃げよう」
『……ええ、分かったわ』
土砂降りの雨の中を傘も差さずに猛然と走る。
少女の冷たくなった手を優しく掴みながら、自宅方面へと向かってひたすらに走り続けた。
足は俺より速いかもしれない。
地面は固いコンクリートで出来ている。
にも拘らず、素足のままで痛がる様子もなく走り続けている少女。
最終的には引っ張られるような形で自宅アパートへと到着した。
「今日はウチに泊まっていいから」
「助かるわ、お邪魔します」
これが、人生の大半を野生と共に過ごした黒崎さんとの最初の出会いだった。
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