第2話工場

サンタクロースJー033の工場では、名古屋市の児童約26万人分のデータと家族構成、収入から計算して贈るべきプレゼントを選別していた。

サンタクロースにお願い事を書いていた子供達にはそれが叶うように、妖精を送り、妖精が書類にまとめて事務処理する。

妖精達は、この期間だけのバイトだ。


10トントラックが工場を出入りする。

「オーライ、オーライ、オーライ、ピーッ!ストップ」

と、係員が工場内を駆け回る。

現場監督の赤鼻は、ソリを引く時はトナカイ、通常時は人間態で行動している。

他の若いトナカイも人間態だ。

ピアスを開けたり、タトゥーが入ってるトナカイもいる。

「こら、そこの若いもん!ちゃっちゃと運ばんか!間に合わんぞ!明後日の便で日本に送るんだから。お前らが、いつまでもタバコ休憩してるから、こんなに遅れるんだよ!」

と、赤鼻は憤慨している。

「あのう、監督、市役所の羽弦さんって方がいらしたんですけど」

「市役所の?……あ、お通しして。応接室に」

「どうも、赤鼻さん。今年も、名古屋市ですね。ここまで来るのに、3日かかりましたよ」

「それはそれは、遠い所まで。で今日のご要件は?」

と、赤鼻と羽弦が話していると、扉が開いた。

サンタクロースだった。

「これはこれは、J−033サンタクロースさん。1年ぶりですね」

「羽弦さんも、お元気ですか?なかなかサンタクロース国の言語が達者ですな。我々は日本語でも構いませんよ」

「ありがとうございます。身体は、ちょっと、切れ痔でね」

「あぁ〜、確かに切れ痔は痛い。私もソリに乗ってる時はこの赤鼻らの走り方が荒いのでイボ痔になりましてね……で、ご要件は?」

「毎年、サンタクロース国に足を運んでいるんですが、統計によるとプレゼントどころか、給食しか食事が摂れない家庭もあるようでして。我が名古屋市としましても、全力を挙げて食事配給の支援をしているのですが、財源が足りずに、このサンタクロース組合さんと相談して、せめて食事だけでも普通に摂れるような活動を拡げたいのですが、あのう相談に乗っていただけないでしょうか?」

033は、スキットル入りのウイスキーを呷り、

「売り上げを寄付するのは、簡単ですがサンタクロースの存在の定着を目的とするならやぶさかではないですな」

「そうですか?では、サンタクロース食堂と言うのは?」

「それでは、クリスマスしかありがたみが無いですな」

「じゃあ、どうすれば?」

「Jー033食堂って名前で。それなら、出資いたしましょう。もちろん、NPO法人として。日本の国にも助けてもらわなければ」

「それなんですけどね。NPO法人は国がお金を支援するのでは無いのですよ。あくまでも、ボランティアです」

「じゃ、食材なんかも、農家と話し合うまでですな」

「とりあえず、Jー033食堂の資本金は1000万円でどうですか?」

「……1000万円。あ、ありがとうございます。詳しくはまた、今年のお仕事中に。夜は時間空いてます?」

「羽弦さん。久し振りのサンタクロース国だ。明後日、名古屋市に向かいます。機内でディナーはどうですかな?」

「で、ディナー。……嬉しいのですが、食事もままならない子供の為に働いている者がディナーなんて。私はこのまま、帰ります。名古屋市で待ってます」

「……あなたは、真面目な方だ。これを」

「なんですか?」

「サンタクロース国産のワインです」

「ありがとうございます。帰国したら妻と飲みます」

羽弦は応接室を出ていった。

「旦那、あんな日本人もまだいたんですね」

「あぁ、あの人はいつも飲酒を趣味と豪語していたが、意外だ。日本もまだまだ捨てたもんじゃないな」

「はい」

「で、作業は?」

「少し遅れ気味です。今日からは3交代制で24時間搬入して、仕分けします」

「赤鼻、任せたぞ。今年は、お前の仕事次第じゃ、ボーナスをやる」

「マジっすか?」

「あぁ」


赤鼻は現場に戻った。

明後日、全ての搬入と仕分けが終わった。

それが、貨物機で日本へ向けて離陸した。Jー033と赤鼻はPJで、日本へ向かった。

赤ワインで乾杯した。

ディナーは、鴨肉のステーキ。

「ここから日本まで何時間?」

「旦那、もう忘れたの?3日かかるよ!乗り継いで乗り継いでの3日間」

「途中、観光したいなぁ〜」

「そんなの、いつもでも出来るじゃいないか」

「赤鼻、お前がいじめられているのを助けて、監督まで育てたのは誰だ?」

「033さんです」

「だよな?口の利き方は気をつけろよ」

「はい」


「しかし、あれだな。飯も食えない子供達はかわいそうだな」

「はい」

「生活保護ってのが、ある国とない国がある。そんな家庭は生活保護で何とかならんのか?」

「それが、難しいらしいですよ」

「親の介護をする、ヤングケアラーもいますし」

「助けてやりたいな」

「そうですが、全員を助けるのは無理ですよ!」

「去年は、歩けない母親を歩ける様にしたけどな」

「あの子は、今は元気で小学生を楽しんでいますよ。母親はパートにも出てるみたいで」

「そうか」


2人は、ワインを飲みながらメインの牛肉のパイ包みトリュフソース仕立てを食べた。


その後、食後酒を飲みながら、033と赤鼻は5分の1の約5万人分のプレゼントは自ら配る事にしたので、リストに目を通した。

病院の小児病棟は全員自らで配るらしい。

だが、一箇所の滞在時間は10分だ。

分配したら、代わりのバイトサンタクロースが子供達の相手をする事になっている。

そして、アンケート用紙も準備した。サンタクロースを信じるか信じないか?


1回目の経由地に到着したのは、17時間後だった。

そこで、ホテルでシャワーを浴びて、髪の毛とヒゲを整えた。

赤鼻と若いトナカイ連中も交代でシャワーを浴びていた。

3時間後、また、離陸した。

PJの機内で、033は爆睡した。赤鼻は、ウイスキーを呷って、日本は豊かだと勘違いしたいた事に気付いた。調べると調べる程、貧しい家庭がある事を知った。

「Jー033食堂」を作りたいと強く感じた。子供たちだけではない、大人も食べさせなくては。

そして、日本の勉強をしていると、31歳の母親と4歳の少女が餓死したと記事に載っていた。

手紙があり、この子にお腹いっぱいご飯を食べさせてやりたかった。と書いてあったらしい。

手元には味塩があるだけだったと。

赤鼻は目頭を熱くした。

涙を拭くと、スキットル入のウイスキーを呷った。





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