おまけ①
バレンタインのお返し(2023年3月14日アップ)
俺、緒方千紘は今悩みがある。
「おーい、早くしろって」
「うっせぇな!」
「うっせぇのはどっちだよ。それよりはよ会計しろって」
そう俺は今、(されて嬉しくもなかったが)バレンタインのお返し、いわゆるホワイトデーであげるものを悩んでいる。
「チョコレートの好みとか知らないの?」
「知るか、ンなもん」
「じゃあやっぱり『俺がプレゼント』でいいじゃ…いでででで!ごめん!ごめんって!!」
(そんなことできるか!!)
***
遡ること数時間前
『『お返し?』』
俺は友人達にバレンタインのお返しについて相談していた。
『ああ。何あげるべきかって悩んでてな』
『へぇー、ちゃんと彼女して…いってぇ!!』
『誰が”彼女”だってェ?』
『だってそうだろ、お前が女や…ゴフッ』
『病院送りにしてやろうか?あ?』
女役とは酷く失礼なことを言うバカは放っておいて、もう一人の友人、矢野に相談する。
コイツは比較的真面目なので、答えてくれるだろう。
『あの後輩くんの事だからモノより緒方が欲しい、とか言いそうだけどな』
と思ったのが間違いだったのかも知れない。
『お前ら俺の相談解決する気ないだろ』
『わーったわーった、とりあえず放課後どっか見に行こうぜ。俺らも彼女にお返しのチョコ買わないといけないし』
***
という訳で今に至る。
二人はもう会計まで済ませたようで、俺に催促をする。
「別にチョコじゃなくてもいいんじゃないの?何か言ってなかった?これが欲しいとか」
「うーーん」
何かなかったかと思い出そうとするも、何も出てこない。
こいつらの言う通り、あいつは俺との時間をとても欲しがる。
やはりここは――いやいや、俺は何を考えてんだ。
「手作りとかは?」
「手作り…」
それは考えつかなかった。
というか、バレンタインがとんでもないものだったから、完全に手作りという路線は消滅していた。
「じゃあ手作りセット買いに行くかー」
***
ホワイトデー当日の放課後
「よお」
俺は珍しく、由宇の教室に来ていた。
「せ、せせせ、先輩……」
由宇は今にも泣きそうな顔をしている。
それもそのはず、今日は俺と全く会話をしていないからだ。
「俺、嫌われたのかと…!」
「わりぃそういう訳じゃねぇんだけど」
そう言って由宇の頭を撫でてやると、もっととせがんでくる。
「とりあえず、こっち来い」
体育館裏まで由宇を引っ張る。
***
「…………………これ、やる」
そう言って先輩から包みを渡される。
「……開けてもいいの?」
先輩は無言で下を向いたまま、小さく頷く。
「先輩、これ…………!」
(チョコだ、先輩の手作り……!!!)
「ありがとうございます、これ食べてもいいですか?」
「………あんまうまくねェかも…だけど……」
「けど?」
先輩は頬を赤らめてもごもごと何かを呟いている。
「仕方ねぇだろ!菓子なんて作ったことねぇんだから!!まずくても文句言うなよ!?」
なんてかわいい、先輩。
俺のために作ってくれたなんて、そんな嬉しいことがあっていいのか。
「先輩、すごくおいしいですよ、ほら先輩も一口」
「は?俺は…んむぅっ!」
口を伝って、先輩にチョコを食べさせる。
「テメェ、何して…ッ」
「ね?おいしいでしょ?」
「…………悪くは、ない…」
それから先輩はお菓子作りにハマり、俺は試食係という最高なポジションを獲得したのは言うまでもなかった。
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