今と未来と#2
「はぁ?」
どうやら由宇は、俺が就職することで由宇と距離を取るんじゃないかと、変な妄想をしていた様だった。
「ぷっ、くくくっ…」
「絶対笑うと思った」
「ひひっ、そんな事考えてると、ははっ、思うかよ」
「だって…」
俺の服を整えながら、顔を真っ赤にして由宇が悶える。
「もうっ、笑わないでってば~!」
「でもよ、俺はお前が思ってるよりもずっと由宇の事好きだぜ」
「先輩…」
「由宇、今日どうせ暇だろ?ウチ、来るか?」
付き合って一年ほど経つが、まだ由宇を家族に紹介した事はない。
特に深い理由はないのだが、なんとなく、そういう機会がなかっただけで。
「いいの?俺、てっきり先輩が嫌なんだと思ってたから…」
「別に嫌じゃねーよ、ほら、行くぞ」
***
「ただいまー」
「「あ、ちーにぃだ!おかえりー!!」」
部屋から先輩の帰りを喜ぶ声が聞こえた。
「よぉ、ただいま。いい子にしてたか?」
「うん!今日ね、頑張ってブロッコリー食べたんだ!」
「りさね、宿題終わったよ!!」
「俺だって!今日逆上がり出来たし!!」
「はいはい」
先輩は凄くご家族に愛されてる。
うちとは大違いだ。
「おい由宇、何してんだ入れよ」
「あ、はい」
「おにーちゃんだーれ?」
「にーちゃんの後輩だよ、迷惑かけちゃ駄目だぞ」
「はぁーい!」
先輩の弟さん、妹さんに囲まれゲームをしたり、一緒に勉強したり、気づけば晩ご飯までご馳走になるまでになっていた。
「母さんお帰り」
「ただいまーってあれ?この子」
「あぁ、俺の恋人。付き合ってんだ俺ら」
「「!?」」
「せせ、先輩!?今その話する流れだった!?弟さん達には後輩って…」
「シーッ」
シーッてなに!?
突然の先輩のカミングアウトに俺の心臓は爆発寸前だった。
紹介して貰えたのは嬉しいけど、それよりもいきなり付き合ってると言ったことに驚いていた。
「は、初めまして、高崎由宇と申します。せ…千紘さんとお付き合いさせていただいています」
「あらぁ~!こんなヤンキーみたいな子にこんなかわいい恋人が~!お兄ちゃんとお姉ちゃんにも連絡しないと!!今日は豪華な晩ご飯にしないと!!」
息子が男と付き合っている事に何の疑問も持たないもんなの?
え?世間体とか、そういうの。
「持たねぇし、気にしねぇよ、うちは」
俺の心の声が聞こえてたの?ってくらい、先輩がタイミングよく話し始めた。
「じゃなきゃウチの母親なんてやってらんねぇからな。疑問なんて持つだけムダだから」
先輩がニコッと笑う、その笑顔がとても可愛い。
普段あまり笑ったりしないから、余計に可愛く見える。
今すぐ先輩とエッチしたいって気持ちを何とか抑える。
「さっき散々したろ、ここでそんなことしたら別れるからな」
「先輩もしかしてエスパーですか?」
「顔に出てる」
「いて」
先輩にデコピンされる。
それからすぐ、先輩のお兄さんとお姉さんがやってきた。
「えー、こんなのにこんなかわいい彼氏さんがねぇ」
「な、えーっと高崎くんだっけ?いいのこんなヤンキーで笑」
「おいお前ら……」
「俺、千紘さんがいいんです。千紘さんじゃないと」
「おまっ……!」「「あら~」」
***
「ちょい、こっち」
ご飯をいただいて、少し経った頃。
先輩が俺を呼ぶので、付いていく。
「あ……」
その部屋には、仏壇があった。
「俺らの親父。もう5年前かな?事故で死んでさ。悪いなこんな暗い話して。飲酒運転の車に正面衝突されて、病院に着いた頃にはもう…って感じでさ。すげー車好きな親父で。ま、こんな話はいいんだよ。由宇にも会わせてやりたかったな」
「いい、お父さんだったんですね」
「そ。俺が車好きなのも親父のせい。だから、そういう仕事がしたくてさ」
俺は、そんな事も知らずに先輩に酷いことをしてしまった。
先輩はちゃんと未来を考えているのに、俺は…。
「いつか車屋を開くんだ。親父の夢だったし、それが俺の夢になった。だから、もし由宇が良ければ、俺を見守ってて欲しい」
「先輩…」
「名前で呼べよ」
「千紘…」
俺には今、夢ができた。
先輩を支える夢。
もし先輩がお店を開くのなら、見守るだけじゃなく、支えたい。
「千紘、俺、ずっと千紘を支える」
「由宇…」
ぎゅっと抱きしめられる。
「ありがとう…ありがとう……」
礼を言わないといけないのは、俺の方だ。
俺の知らない家族の暖かさを教えてくれた。
夢を与えてくれた。
幸せをくれた。
「親父、俺、こいつと…由宇と付き合ってる。俺の夢を支えてくれる、最高の恋人だ。だからずっと見守っててくれ」
「千紘……キス、してもいい?」
「……っ、触れるだけ、だからな」
***
いい雰囲気だったのを、兄貴と姉貴にぶっ壊され、俺は怒っていた。
「ごめんってば~」
「悪趣味なんだよ、クソ兄貴にクソ姉貴。盗み聞きしやがって」
「あはは……」
二人には当分この事をネタにからかわれるに違いない。
最悪だ。
「ねー、ちーにぃは何で男の人とつきあってるの?女の人じゃないの?」
小学校三年生の妹の夏帆が、不思議そうに聞いてくる。
まあ、普通はそうだよなぁ、と思いながらも、答えは一つ。
「たまたま好きになったのが男の人だっただけだよ。夏帆にもいつかわかるよ」
「先輩~!!」
「調子乗んなよ!って、離れろうっとおしい!!」
「無理~!」
「ゆーにぃだめ!ちーにぃは夏帆の~!!」
「俺のです~!」
そう言って頬にキスしてきた。
「おま…子供に張り合うな!!」
「だってホントの事だし~!!」
「あ!夏帆もちーにぃにチューする~!」
「だーめー!」
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