今と未来と#1

*描写あり



時は経ち。

俺は三年、由宇は二年になった。


「え?バイト増やすんですか?」

「あぁ」

「なんでですか?」

「今世話んなってるところで就職したいから。そういう話したら、ならもっとバイトして経験積みなって言われてよ」


俺は今、親戚のおっちゃんが社長をしている車屋でアルバイトをしている。

まだまだ何も出来ないが、車を見るのは楽しいし、いつか弄ったりしてみたい。

それに家族に少しでも金を入れたい、ってのもある。


「そう、なんですか…。じゃあ今みたいには…」


明らかに落ち込んでいる由宇を慰める。


「学校では会えるだろ」

「でも二人きりじゃない」

「じゃあ明日から、二人きりになれるようなところ探そうぜ、な?」

「うぅ……」


ぽん、と頭を撫でてやるが、今日別れるまで全くと言っていいほど効果はなかったようで、由宇はずっと落ち込みっぱなしだった。



***



「あーっと…ゆ、高崎いるか?」

「高崎くん、今日お休みなんです。風邪引いたみたいで」


クラスメイトからそう言われたが、俺には一切連絡なんて来ていない。

心配だからLINEを送ったってのに、未読無視と来たもんだ。

まあ体調が良くないってことなら寝てるんだろ、と心の広い俺は許してやる事にした、が


「なぁ緒方が怖ぇよ」

「俺に何があったか聞けってのか?」

「やっぱり後輩くんの事かなぁ」


一週間、一週間だ。

アイツ、次の日には学校来てたのに、俺の事無視しやがった。

それから昼飯に誘っても、帰り一緒に帰ろうと気合いを入れて声をかけても、全部無視。

アイツ俺の事舐めやがって。

こうなったら、強硬手段だ。

あいつが登校するのを待ち伏せ、来たところで靴箱をぶん殴る。


「おい、ツラかせや」

「………やです」

「あぁ?今何つった」

「嫌です、って言ったんです」

「てめぇ、いい加減にしろよ…」

「だから……っんむ!?」


ムカつく、由宇の癖に俺に歯向かいやがって。

俺がどれだけ、どれだけお前に会いたかったと思って……!


「ん、んん~~っ!」


止めろお言わんばかりに俺の背中を由宇が叩く。

しかし俺はそんなのに構っていられない。


「ん、ふぅっ、はっ、はぁっ、せんぱ…あの、周り……」


周り…?

周りには、沢山の生徒が、いた。

俺はそんな事にも気づかずに、こいつにキ、キキキ、キスを…!


「~~~ッ!!何で止めねぇんだ!!」

「だから俺…!」

「うるせぇ!!とりあえずこっちこい!!」


一週間、由宇が俺を無視していた間に見つけた、文化部の部室の一室。

ほぼ人が居ないのは確認済みだ。


「先輩、だから俺……って、ちょ、これ何ですか!!」

「黙ってろ」


俺は由宇の腕をネクタイで縛り上げる。


「てめぇ一週間も俺の事無視しやがって。覚悟しろよ」



***



「はぁっ、んっ、ふぅっ」

「せん、ぱ、とってよ、これっ」

「誰、が、とってやるかっ、あ、んぅっ」


何でこんなことに。

俺は今、先輩に襲われている。

普段、SEXする時はあんまり乗り気(ヤれば乗るんだけど)じゃないから、目の保養にはなるんだけど。

こうなった原因は、俺にある。

先輩が就職するという話を聞いて、ショックを受けた。

何となく、皆大学に行くんだと思ってた。

だから俺は、先輩の後を追って同じ大学に行きたいと思ってた。

でもよくよく考えてみたら、先輩のお家は大家族で、普段もアルバイトはしてたし、無駄遣いなんて絶対にしない人だ。

だからあの日、珍しく先輩が奢ってくれるって言ったのは、俺にこの話をするためだったのかも知れない。


『就職すんだよ、俺』


突き放されている、そんな気がしてしまった。

次の日、俺はショックで寝込んでしまった。

せっかく先輩から大丈夫か、ってLINEも来たのに、先輩に何て返事をしたらいいかわからなくて、未読無視してしまった。

それからも先輩に会うのが怖くて、ずっと避けていたら、皆の前で先輩にキスされて、どこか分からない教室に連れてこられて、今に至る。


「腕、とって、よっ、痛いからっ」

「………」

「先輩……?」

「痛い、だって?そんなの、俺の方が…………」


先輩が、泣いてる。

いつもあんなに強気でかっこいい、先輩が。

俺が、先輩を泣かせた。


「せんぱ……」

「お前に…由宇にッ、一週間も、会えなくて話せなくて…辛かった、俺の気持ちが……」

「先輩、ごめんなさい。俺も、本当は先輩と会いたかった」

「嘘だ。俺のLINEも無視するし、声、かけようとしても、に、逃げるし……っ俺、ひっく、嫌われて……嫌いになったなら、うぅっ、言ってくんなきゃ、わかんねぇよぉ」


泣きながらも、先輩なりに必死に想いを伝えてくれているのに。

俺、自分の事ばっかで、先輩の気持ちなんてわかってなかった。


「先輩、ごめんなさい。俺が先輩の事嫌いになる訳ない、って言っても信用して貰える訳ないよね」

「うっ、本当に、か?本当に俺の、事…ひくっ」

「うん、大好き。一生離さない、先輩は俺だけのもの。誰にも渡さない。だからこれ、とって?先輩の事、抱きしめたい。ダメ?」


そういうと、先輩は俺を拘束していたネクタイを解いてくれた。

自由になった手で、俺は先輩を抱きしめた。


「先輩、ごめんなさい。後でちゃんと理由話すから。だから」

「ひっく、男に二言はないからな?責任、とれよ?」

「当たり前でしょ?千紘、大好き」

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