過去と今と#1
*描写あり
俺、緒方千紘は、ごく普通の高校2年生だった。
あの日までは。
「はー」
ゴミ捨て場に行くと、そこになぜか人がいた。
「お、おい、お前、何してんだ…」
返事は無い。
ま、まさか死んで……。
「……」
「お、おい!」
「あ…」
ぶんぶんと体を揺らすと、そいつは僅かに声を漏らした。
死んでは無いみたいで、ほっとした。
「こんなとこで何してんだ」
「……」
「おい、聞いてんのか、クセェしとっとと出るぞ」
グイッとそいつの腕を引っ張り、ごみ捨て場から出ると、そいつの制服はゴミで汚れていた。
「あーあ、せっかくの制服が」
「別に…」
「よかねぇだろ。自分で買ってるわけでもねぇのに」
「…また買ってもらえばいいですし…」
「ンなわけあるか。金は大事にしろって習わんかったんか」
なんだこいつ、いちいち癇に障る。
「…なんで俺なんか助けたんですか」
「いや、あんなとこにいる奴を助けないわけないだろ。アホか?」
「………」
そいつの顔を覗くと、そいつは泣いていた。
「ちょ、なんで…!」
わあああん、と大声で泣き始める。
「な、泣きやめって!俺が泣かせてるみてぇじゃねぇか!!」
「ぐず、ひっく…」
「げ!俺の制服で鼻水を拭くな!!」
どうやらこの泣き虫はイジメられているらしい。
それからことある事に、俺はあいつがイジメられてる現場に出会っては助けて、を繰り返していた。
***
「せんぱーーーーい!!」
「うぜぇ!とっとと離れろ!!」
それからというもの、1つ下の後輩、高崎由宇にずっと付きまとわれている。
最初は友人達も離れてやってよー、と言ってくれていたが、高崎のあまりのしつこさにあいつらは俺ではなく高崎の味方になりやがった。
「相変わらず仲良いねー」
「どこがだ!?!?」「えへへー」
「てめぇまじでいい加減にしろよ…」
「なんでですか、俺先輩の事が好きなだけなのに…」
捨てられた子犬のような眼差しで俺を見てくる。
「はぁ!?好きだって!?俺は違ぇんだよ!」
「違わないですよ」
ゾクッ
何故か、体が震える。
「違わない」
いつもと違う声のトーンに少したじろぐ。
キーン、コーン…
奇跡のようなタイミングでチャイムが鳴る。
「ほ、ほらチャイム鳴ったんだからはよ教室戻れ!」
「はーい!また放課後!!」
高崎は自分の教室に戻って行った。
「しかしあの子も凄いね。緒方がなにしてもへばんないし」
「いやまじで…」
深いため息をつく。
「でもいいじゃん、あんな慕ってくれて」
「いーやありゃ慕ってるなんてもんじゃないね、愛だよ、愛」
俺を無視して友人達は高崎の俺への異常なまでの執着心について考察している。
『違わないよ』
『違わない』
あいつの一言を思い出して、また体が震える。
いやいや、と自分を言い聞かせる。
男が男を好きになるなんておかしいだろ。
有り得ない、有り得るわけが無い、そうだ、そうに決まってる。
そんな事を考えていたら、放課後になっていた。
「先輩!今日、うち来ませんか!?」
「は?」
高崎は、当たり前のように俺らの教室にいた。
「いつもお世話になってるので、そのお礼をしたくて!」
「…別にいいけど」
何二つ返事で了承してんだ俺!
俺の返事を聞いた高崎は大喜び。
「やったー!!じゃあ、行きましょ!!先輩のお友達さん達!さようならです!!!」
「「おー」」
「やめろ!離せ!この…!」
友人達は助ける気など、無さそうだった。
「大丈夫か、アレ?」
「大丈夫じゃないだろ。緒方のケツよ、南無南無」
「南無南無」
***
なんじゃこのでかい家。
まるでドラマ中の金持ちみたいな家に、門扉。
俺は唖然としていた。
「田中さーん!俺です、帰ってきました!」
『お坊ちゃま!かしこまりました。ただ今開けます。』
田中さん、とか言うのが応答すると、ゴゴゴ…と自動で門が開いた。
玄関に辿り着くと、そこには沢山のメイド…ではなく、1人の老人が立っていた。
「緒方様ですね、お坊ちゃまからお話は聞いております」
「あ、どうも…」
そのお坊ちゃまは、俺の横でえへへと笑う。
こいつ俺の事なんて言ってんだ…。
寒気がする。
「先輩!俺の部屋、案内します!田中さん!お茶とかは自分でやりたいから置いておいて!」
「かしこまりました」
「先輩こっちこっち!」
「わかった、わかったから腕引っ張んな!」
余程俺を家に招待できたのが嬉しかったのか、俺が何を言っても無駄だった。
「お茶とお菓子持ってくるんで待っててください!」
そう言って高崎は出ていった。
主人のいない部屋に1人残された俺は、特にすることもないので部屋を見渡す。
普段きちんと勉強しているんだろう、机もしっかり整頓されているし、教科書にはたくさんの付箋が貼り付けられている。
ペラペラとめくってみると、高崎のきれいな字が目に入る。
丁寧な色使いに、自分用にわかりやすい解説まで。
頭までいいとか、なんだこいつ。
ちょっとだけムカついた。
コンコン
『せんぱーい、開けて欲しいですー!』
「はいよ」
扉を開けると、お茶菓子をもった高崎がいた。
「作ったのは田中さんなんですけどねー」
へへ、と笑いながら中央の机に置く。
「うまそう」
「おいしいですよー!田中さん、料理もなんでも出来るんです!」
そう言って、田中さんというお手伝いさんの自慢が始まった。
聞くと、両親は常に仕事でいないらしく、この広い家に田中さんともう2人ほどのお手伝いさんが交代で家のことをしているらしい。
マジでドラマみたいな世界だなと思った。
「先輩のところは?」
「いや、うちは普通だよ。ちょっと兄弟多いだけ」
「いいなぁ兄弟、羨ましい」
「めんどくせぇぞ、上の兄貴は家出てるけど、下の子達の世話しなきゃなんねーし」
「世話って、どういうことするの?」
「いや、普通にメシ作ったり、勉強見てやったり、風呂入れたり…」
「…体拭いてあげたりするんですか?」
「まぁなぁ、小一のチビがいるし。まだちんこ出したまま歩き回ったりするから…」
「……い」
「は?」
「ずるい、そんなの」
なに、言ってんだ、こいつ。
「先輩、俺がなんで今日先輩を家に呼んだか、わかります?」
「いや、お前が日頃の礼したいって…」
気づけば高崎が俺の上に跨っていた。
「俺が先輩のこと好きなの知ってるのに、よく来ましたよね。何も無く帰れると思いました?」
スル…と高崎の細い手が俺の股間をまさぐる。
(ウソだろ…なんで)
「ほら、先輩も期待してる」
「ち、ちが…」
「違わないよ。ほら、みて?」
高崎は器用に俺のベルトを緩め、ズボンとパンツを脱がされる。
「ね?」
「…っ!」
恥ずかしい、消えてなくなりたい。
後輩にこんなところを見られて、なのになんで…。
「後輩に見られてるのに萎えないね、先輩の。えっち」
耳元で囁く。
その声にすら俺のはぴくぴくと反応する。
「床じゃなんだし、ベッドいきましょ」
高崎が俺の腕を掴み、俺をベッドに放り投げる。
「ちょ…」
俺の静止なんて聞きやしない、いや元々から聞かない奴だったけど。
「先輩、すき」
「いや、俺は」
「すき、すき。ちゅっ」
「ん゛っ!?」
「先輩、お口、開けて」
「だ、誰が…!んん!」
しまったと思った時には遅かった。
俺が話したのを狙って再びキスをされる。
「ん゛ん゛ん゛ーーっ!」
「ちゅ、ちゅくっ、ちゅうううう」
「ふぅっ、ふぅぅっ」
「ん…先輩の口の中、おいしい」
やばい、やばい、逃げなきゃ。
こいつを殴ってでも逃げないとダメだ、と体が言っている。
俺が手を振りあげた瞬間。
ガシッ
腕を、掴まれた。
「え」
「逃げられると思いました?俺、こう見えても柔道有段者なんだ♪だから観念してね、先輩」
「クソ、マジでビクともしねぇじゃねえか!」
「はい、そうしないようにしてるんです。痛いと思いますけど、ちょっとだけ我慢してくださいね」
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