第13話 太陽と正義

 岩に座る二柱の神々は、互いの胸の中にある想いを語り合う。アマテラスは、滑らかな唇を動かして、暖かい声を発した。


「この大陸に住まう神々をまとめ、皆が穏やかに暮らせる国を創りたいのです」


 大口真神ことマガミは、眉間にしわを寄せて考えた。


「大陸とは、何を指している?」

「我が父、イザナギが創り出した海に浮かぶこの土地ですよ」

「さながら、日の女神が皆の手本になるといったところか」


 日のある国の手本になる。穏やかに神々が暮らし、共に時間を歩んでいくのだ。それこそが、アマテラスの思う正しきあり方だ。

 疑問げな表情を浮かべているマガミは、アマテラスの言葉に感心しながらも異を唱えた。


「聞けば理想郷だ。 もし、海の向こうにいる神々が攻め寄せてきたらなんとする? その者たちも、穏やかな世界を求めていたら?」

「争いは好みません。 まずはこのように、話し合い互いの真意を聞くのがいいでしょう」


 マガミは口ごもった。眼の前で、瞳を茜色に輝かせている女神は、好奇心に満ち溢れ、語る言葉には一切の嘘偽りがない。だが、あまりに言っていることが甘いのではないか。

 正義の神であるマガミは、心の中で複雑な心境にあった。そしてそれを言葉に乗せた。


「申していることは、理解致しました。 されど、相手が話し合いをしなければ、戦う他ありませんな」


 するとアマテラスは、傍らに立っている弟のツクヨミや武の化身であるタケミカヅチを見た。


「弟たちは、戦いにも優れております。 ですが、彼らの力を使わないことを願うばかりですね」

「私は真の神。 正義こそが全てであり、大義名分のない争いは好まない」

「同感ですよマガミ」


 マガミは、青々とした空を眺めて一呼吸した。既に自分が暮らしている吾妻あずまから西は、アマテラスが治めているのであろう。争う理由もまるで見つからない。

 姿勢を正し、両手を丁寧に揃えて地面へ当てた。そして深々と頭を下げて、正義の狼は言葉を発した。


「そなたを御大将と慕い、この国の安寧を約束しましょう。 私、吾妻からさらに北に至るまで、守り神となりてこの土地を見ていきます」


 アマテラスは、その優しさと暖かい言葉を持って争うことなく吾妻からさらに北までを治めることに成功した。

 旅路は帰路となる。マガミとは、一旦別れスサノオが創っている出雲の社を見に行くことにした。彼女らの帰路を、マガミが見送った。


「再び会わんアマテラス様」

「ええ、また会いましょうマガミ。 この国が健やかで、麗しい国になるために頑張りましょう」

「御意っ!」


 吾妻への旅を終えたアマテラスは、西へと一歩踏み出した。富士の山を北から周り、北の陸を海沿いに沿って進む。

 その道中は、穏やかなものであった。山に囲まれた盆地へ辿り着くまでは。

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