第14話 争いの化身

 ここは、とある広大な盆地だ。北には、山々が連なっている。アマテラスは、自らが治める土地をくまなく練り歩いていった。

 そんな時、彼女ら一向を快く思わない一団に出くわした。


「てめえらは、どこのもんじゃいっ!?」

「あら、勇ましいお方ですね。 私は、アマテラスと申します。 この国を治めようと思っています」

「はあ!? 国だあ? ここは、うちの親分が治めているシマだっ!」

「島? いいですねその言葉。 さながら、海に浮かぶこの大陸は、島国ということですね!」


 全身が深紅で、厳ついその者はアマテラスの言葉を聞いて困惑している。やがて、彼らの仲間たちが山脈から姿を見せた。

 誰もが深紅の肌を持ち、鋭い牙が口から生えている。そして牙にも負けない鋭いものが、頭部からも生えている。

 アマテラスは、この見慣れない神々に興味津々だ。


「頭から生えているものは、なんでしょうか?」

「これは、角だ! わしらは、鬼族じゃっ!」

「まあ鬼と申しますか! とても強そうですね。 どうでしょうか、私と共にこの国を治めませんか?」


 鬼は、アマテラスの発している言葉の半分も理解できていない。あまりに聞き慣れない言葉の数々に、困惑した鬼は手に持っていた金棒で小さい頭をかち割らんと、襲いかかった。


覇邪はじゃ神刀しんとう

「ぐはっ!? なんだこいつは!」

「我が御大将に触れる者を成敗する者だ」

「つ、強い......親分に伝えねえとだっ!」


 鬼は足早に逃げ去った。それを見ても、アマテラスは話足りないという表情で、悲しそうにしている。

 たが、ツクヨミが姉の細腕を掴んで、強引に引っ張り始めた。


「姉上行きますよ」

「まだ話は終わっていませんよ!」

「今は止めておきましょう。 あの者の様子からして、鬼という者は簡単に話し合いができるとは思いませぬ」


 それでも語り合いたい。まずは、相手の心の中からわかり合うことが大切だ。そう、常に感じているアマテラスは、マガミともわかり合えたことから、鬼ともわかり合えると信じている。

 だが、武神の直感的に危険と感じたタケミカヅチもツクヨミと共にアマテラスを、この山脈から逃がすことにした。


「いいですか姉上、せめてスサノオを連れていきましょう」

「せっかく語り合えると思ったのに残念です......」

「なあタケミカヅチよ」


 ツクヨミは、傍らで控えているタケミカヅチの丸太のような腕を掴んだ。そしてアマテラスから少し離れた場所で、夜風のような小さい声を発した。


「姉上の悪いところだ......どんな者にでも、お優しいから危険でならぬ」

「されど、副将殿ツクヨミ。 それが、あのお方の素晴らしきところなのですぞ。 御大将アマテラスに危険が及べば、このミカヅチが成敗致します」

「姉上の良きところか......どうにも警戒してしまう癖があるのは、それがしの悪しきところか?」


 太陽のように明るくて、誰の心も暖めることができるアマテラスは、ツクヨミにとって尊敬の塊である。

 対して自分は、常に物静かであり、誰が近寄ってきても警戒してならない。吾妻で大口真神を見た際も、凶暴な存在と思い刀を抜く準備すらしていた。

 それをアマテラスは、一太刀も交えることなく家来にしてしまう。到底、自分にはできないことだが、自分にしかわからない警戒心だってあるのだ。鬼という神は、まさに警戒するべきだと感じた。


「姉弟だからこそ、対照的で良いのです副将殿」

「それは真意か?」

「はい。 御大将が闇を祓うお方とするのなら、副将殿は闇に気がつくお方。 対照的でなくては、勤まらぬ大役ですぞ」

「闇に気がつくか......それが、我が役目ということか」


 太陽と月。常に交わることはないが、必ず両方とも必要であり、異なる魅力を持っている。まさにアマテラスとツクヨミというわけだ。

 タケミカヅチの言葉を聞いた若き月の神は、自信を持った面持ちで頷いた。そして、鬼が住まう山から離れ、一向はスサノオが待つ出雲の社へと向かうのであった。

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