第11話 スサノオの剣

 大地がめくれ上がり、遠くへ吹き飛んでいくほどの衝撃波である。スサノオの大風と、ヤマタノオロチの激しい体の動きが地面を荒らしていく。

 八つもある顔が、交互に繰り出され、頭突きを受けているスサノオはその破壊力を前に口から純白の血液を吐き出した。

 しかし、神農から手に負えないとまで言われた荒ぶる神は、この程度で怯むことはなかった。


「やるじゃねえかヘビが」

「兄上もそれなりにな」

「てめえのような、女子おなごを食い物にするやつに兄なんて呼ばれてくねえぞっ!」

「じゃあ兄上も食ってやるさ」


 ヤマタノオロチは、体を回転させて長い尻尾を振り回した。それを、十拳剣とつかのつるぎで受け流し、僅かな隙を見て吹き込んだが、八つの頭が戻ってきては頭突きをしてくる。

 呼吸が微かに上がり始めたスサノオは、大きく息を吸い込み、自らの最高の技を繰り出した。

 大嵐で、自身に加速をつけて飛びかかる。それはまさに、台風から飛来してくる凶器だ。


十拳とつか神封しんぷうっ!」


 拭き乱れる凶器は、ヤマタノオロチの首を次々に斬り落としていった。やがて胴体を斬り裂くと、巨体は地面へ吸い込まれるように崩れ落ちて、灰色の煙を出し始めた。

 しばらくすると、巨体は灰色の煙と共に消えて、その場には見事な剣が地面に刺さっている。

 ヘビのように蛇行しているが、刃は鋭く頑丈だ。そして陽の光が当たれば、虹色にも輝くこの名刀を、草薙くさなぎの剣と呼んだ。得意げに草薙の剣を、腰に差した。

 そして一目散に駆けていったのは、クシナダヒメの元だ。


「大事ないか?」

「なんとお礼を申し上げれば良いか......」

「礼なんて無用だ。 そなたの心中を思えば大したことではない」

「スサノオ様。 もしよろしければ、旅路をお供してもいいでしょうか?」


 おっと目を開いて、アマテラスの方を見た。この先の旅路が、平穏なものかわからない。太陽のように暖かく微笑んだアマテラスは、そよ風のように優しく口を開いた。


「この先の旅路は、我々で参りますから、お二方はこの土地に社でも建てて住むのが良いでしょう」

「同行すると言っておいて面目ねえ......この土地、この社を出雲大社と名付けて過ごさせてもらうぜ」

「ええ、嬉しいことですね。 吾妻への旅が終わりし時、再びこの場所へ寄らせて頂きますね」


 この土地は、海も近い。そして海を渡れば、スサノオの父である神農が暮らす黄河こうがの国がある。

 やがてスサノオは、クシナダヒメを妻にして、たくさんの子どもを設けた。子どもたちの中に、宇迦之うかの御魂みたまという女神がいる。

 彼女は後に、狐の神たちを束ねる女神となるのだが、それはまだ先のことであった。

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