第5話 アヌの子どもたち
エレシュキガルと名乗った女神は、冥府について知っているかのような口ぶりだ。それどころか、消えたイザナミがどうなったかも知っている様子ではないか。
不敵な笑みを浮かべる
「我が妻はどこだっ!」
「もう二度と再会はできないでしょうねー」
「詳しく説明しろっ! 妻に何をしたんだっ!」
「あら、失礼な......何もしていないわよ。 ただ、もう虹と灰の戦いに身を投じてしまったのでしょうね。 灰の女王として」
イザナギは、もはや我慢することはできなかった。エレシュキガルの胸ぐらを掴もうと、手を伸ばした。しかし、彼女は伸びてくるイザナギの腕を掴んで、足を引っ掛けた。
空中で、一回転して倒れ込むイザナギを見下ろして彼女は笑みを浮かべた。
「乱暴ね。
「神去......なんだそれは......」
「
イザナギが
エレシュキガルは、イザナギの前でしゃがみ込むと、さらに言葉を述べた。
「我らの親は、闇の膨張を止めるために戦っている。 産み落とされた我ら子どもは、親の元に強力な戦力を送って援護する必要があるわ」
「闇は一体、何が原因で広がっているんだっ!?」
「負の概念でしょう。 ガイアが産み出した負の概念から、膨張を繰り返している。 そして、貴方の妻も死という負の概念を背負った」
イザナミは地球に存在している全ての負の概念を背負った。そうすることによって、我が子たちが健やかに暮らせると信じて。
エレシュキガルは、イザナミの神去を聞いて呆れた表情を見せた。
「無意味なことを......それどころか、力を吸収して灰の戦士として強力になってしまったわね......」
「一体何が言いたいんだっ!」
「もはや自然に広がっていた闇の膨張を、自らの意志で広げているに等しいわ!」
イザナギは落胆した。愛する妻は、背負いすぎた闇のせいで邪悪に染まってしまったとエレシュキガルは言っているのだ。再び再会するどころか、もう二度とわかり合うことすらできない。
愕然としたまま、エレシュキガルにどうするべきなのか、尋ねると彼女は睨みつけた。
「覇権よ。 この世界を支配して、我らの親元へ強力な神々を送る。 そして、闇の膨張を止めるのよ」
「我が妻を討てと申すか?」
「最後は、夫である貴方が討てばいい。 もはや戦いの規模は、計り知れない」
創造神アヌの子どもたちは、自らを「メソポタミア神族」と名乗り、既に「覇権」という概念を産み出していた。
現時点で、最も先進的な神族となったメソポタミア神族は既に冥府すらも支配下に置いたというわけだ。
エレシュキガルは、得意げな表情をしてイザナギとオシリスに言った。
「タルタロス? いいえ、冥府よ。 そして冥府は、私の土地だから勝手に入ったら討ち滅ぼすわね」
「なんと身勝手なっ!」
「全ては、闇を止めるためよ。 私は冥府にいても闇に飲まれることはない。 体質なのかしらね」
他の神々が、恋をして土地を開拓している間にメソポタミア神族は世界を統治しようとしていた。
イザナギは、オシリスと顔を見合わせた。
「なんということだ......」
「我らも勢力を拡大しなくてはな......このままでは、アヌの子どもたちに支配されてしまうぞ。 そして、確証もない
「左様......妻が灰の戦士とやらになったと誰が信じようか......」
「ここからは、別行動だ。 いつの日か、そなたとは協力する日が来るであろう。 また会おう友よ!」
オシリスは、妻のイシスと共に歩いていった。一度は、命を落として冥府へ行ってしまったが、闇に飲まれずに地上へ戻れたのはイザナミが自らの体に闇を受け入れてくれたからかもしれない。
そう思うと、残されたイザナギへ罪悪感が湧いてしまうが、今さらどうすることもできなかった。
できることは、今後とも協力してメソポタミア神族による根拠のない支配へ立ち向かうことだ。
こうして、オシリスは砂の土地へイザナギは創り出した島国へ戻っていくのであった。
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