第3話 街巡り①
妖精の木漏れ日亭を出ると、ウィローラのおすすめ店を巡ることになった。先頭を歩くウィローラとケレアニールの後ろに私が続き、その隣を歩くヴィロミアが街を見渡しながら尋ねてくる。
「この街の主な移動手段って、歩きキノコと虫、それに鳥?」
「そうです。木をそのまま利用した建物が多いので、空を移動する虫や鳥は必須ですね。特に、私みたいに飛べない種族には」
私は見上げるほど高い場所にある木の板の通路や店を指差した。ヴィロミアはそれを見上げ、ため息をつくように言う。
「確かに、あの高さまで階段で行くのは考えたくもないわ」
「それに、地面も少し傾斜がありますからね。荷物を運ぶには歩きキノコが便利なんです」
「中央樹の根のせいね」
さすが学者だ。的確な観察力に思わず感心する。
「その通りです」
最寄りの停留所に着くと、ウィローラが振り返りヴィロミアに尋ねた。
「虫と鳥、どっちに乗りたいですか?」
「どう違うのかしら?」
「虫は短距離向きで、鳥は長距離向きです。虫は羽音が少しうるさくて、鳥は少し揺れますね」
「なるほど、せっかくだし、どっちも体験してみたいわ」
「では、せっかくですし行きは鳥で街を一周する周回ルートを。帰りは虫で短距離移動にしましょう」
ヴィロミアの返事を受け、ウィローラが停留所の魔石で、「鳥と人数、目的地、周回軌道」を選択する。観光業が発達している街だからこそ選べる軌道だ。
しばらくして、大きなカゴを掴んだ鳥が停留所前に降り立った。
「大きいね」
鳥を見上げたケレアニールが感嘆の声を漏らす。それにウィローラが補足する。
「ここでは中型種だよ。一番大きいのはグリフォンで、国や村間の輸送に使われているよ」
鳥が翼を広げると、その迫力に圧倒される。私たち全員の身長をはるかに超える翼の大きさだ。ウィローラがカゴのロックを外し、扉を開けて中に案内してくれる。最後に彼女が入ると、再びロックを閉じ、カゴに設置された魔石に触れる。すると鳥は大きく羽ばたき、空へと上昇していった。
高度が増し、街の人々が豆粒ほどの大きさになると、中央樹を中心に周回軌道を描き始める。
「改めて見ても、あの樹は本当に大きいわね」
ヴィロミアが中央樹を見上げて感嘆の声を漏らす。その隣でケレアニールも景色に見入っている。二人の楽しそうな様子に、ウィローラと目を合わせて笑い合った。
ふと気になることがあったのか、ケレアニールが私に向き直る。
「城壁は森側にしかないの?」
「そうだよ。この街にとって脅威は森から来る魔物だけだからね」
「なるほど。でも、あの城壁、変わった作りだよね」
「あれは締め殺しのツタだね。近づいた生物を絡め取って内部に引き込み、血肉を吸う植物」
「え〜怖っ!人間も巻き込まれるの?」
「もちろん。でも柵の内側に入らなければ大丈夫。ちなみに森の監視はあの物見やぐらからやってる」
私は木組みの高い塔を指差す。ケレアニールがそれを見上げ、「なるほどね」と納得した様子で返事をする。
周回軌道を終え、鳥が目的の停留所に降り立つ。二人とも揺れをそれほど気にしていないようだ。バランス感覚が良いのか、それとも景色に夢中だったのか。
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