第1話 冒険者のモーニングルーティン①
まだ太陽が昇らない薄暗い朝、グリフォンの鳴き声が街中に響き渡る。それを耳にして私は目を覚ました。窓を開けると冷たい朝の空気が肌を刺し、思わず身震いする。ベッドの上で坐禅を組み、体調と魔力の流れを確認する。それが終わると一杯の水を飲み、訓練用の木剣と盾を腰に固定して外へ出た。
のんびりとした歩調で城壁方面へ歩きながら、目に飛び込んでくるいつもの朝の風景。歩きキノコの散歩を楽しむ人、巨大な虫が市場へ新鮮な果物や野菜を運んでいる姿。夜勤明けの門兵や冒険者たちがあくびをしながらすれ違う。グリフォンにブラシをかける人や、屋台の準備を始める人々。街全体が少しずつ動き出すこの時間が、私は好きだ。清々しい気分になれる。
道中、教会に立ち寄り、軽く祈りを捧げる。シスターと少し会話を交わしてから再び歩き出す。やがて城壁近くに到着すると、内壁に沿ったランニングコースが見えてくる。すでに多くの人が走っており、私は軽くストレッチをしてから走り始めた。
体が温まり、息が上がり始めた頃、肩を軽く叩かれる。振り返ると、ウィローラが元気な声で話しかけてきた。
「メーケおはよう!」
「おはよう、ウィロ」
ウィローラは私のペースに合わせて並走しながら話を続ける。
「今年のゴブリン討伐祭、参加するよね?」
「うん、そのつもり。特別報酬も出るし」
「参加するだけで報酬くれるなんて、ギルドも気前がいいよね」
「それに、ゴブリンの肉もたくさん食べられるみたいだし」
「やっぱり、それが本名でしょ」
「まあね。解体したばかりの新鮮な肉だし、絶対おいしいと思う」
「でも、食べる余裕あるかな?」
「強いクランが先導して、ほとんど倒してくれるって聞いたよ」
「私もそれ聞いた!どちらにしろ、参加するならパーティ組まないとね。誰か当てある?」
「無いね」
「じゃあ、仲介屋に頼ろっか」
「了解。じゃあ、このあとギルドに寄ろうか」
ウィローラはそれに頷いて返す。
気づけば川辺まで来ていた。ペースを落とし、歩きながら息を整える。周囲には座禅を組む人や木刀で木を叩く人たちが、それぞれのトレーニングに励んでいる。私たちも混ざり、スクワットや素振り、戦闘のイメージトレーニングを行った。
その後、攻撃魔法の使用許可エリアへ移動する。そこには木の板で区切られた簡易的なスペースがあり、人が多い割にスペースが少ないため、二人で一つの区画を交代で使うことにした。
まずは私の番。定められた位置に立ち、手元の魔石に魔力を流して地面から土塊を隆起させる。
全身に魔力を意識的に巡らせ、自己世界の構築を始める。頭上の二本の角は、生まれ持ったものゆえに体と完全に馴染み、詠唱の必要もなく自然と媒体として機能する。
角を通じて感じられるリンク先は、雷が鳴り響き荒ぶる獣の世界。私のイメージの中でこの世界は、雷の力が渦巻く場所だ。そこへリンクを通じて魔力を送り込むと、その分の雷が返ってくるーーシンプルな力の循環だ。
リンクからの応答があり、角に雷が帯電し始める。バチバチと耳元で鳴る電気特有の音が、螺旋状の巻き角に近い位置で響き、少し煩わしい。この音には未だ慣れず、集中を乱されることもしばしばだ。
一度深呼吸をして気を取り直す。魔力を扱うのと同じように、雷の動きに意図を込める。「前へーー貫け」と。
命令を受けた雷は瞬時に前方へ解き放たれ、空間に荒々しい傷跡を刻みながら鋭い音を響かせる。
しかし、土塊にはかすりもしない。荒々しく放たれた雷は、その上を通り過ぎるだけだった。
「相変わらずだね、当たったところ見たことないよ」
後ろで見ていたウィローラが茶化してくる。
「ゼロ距離で打てば当たるし、それに大きい相手とか、それこそ大きな水の塊で敵を覆えば...」
「私たちレベルだと、水の塊維持するだけで手一杯でしょ」
「そうだよね、私の唯一の武器なのに」
「角に蓄電できるんでしょ?」
「できるけど」
「威力も数も増えるじゃん」
「そうだけど」
「けど何よ?」
「当たらなければ何の意味もない」
帯電できる許容量が多い影響かわからないが、思った以上にリンクからの魔力量が大きくなってしまい、制御しきれなくなってしまうのだ。
「たいしたポンコツぶりだね〜」
「そっちだって、飛ぶと発光しかできないじゃん」
主戦場である森の中だと飛びにくいし、発光なんて味方の目もくらませるから、どちらも使いにくい魔法だ。
「私は切り札があるもん!見てて!」
ウィローラは両手を広げ、空を仰ぎ見て叫んだ。
「ホォォォリィィィ~レクイエムッ!」
天空から降り注ぐ神々しい光が彼女を照らし、私まで包み込む。暖かさを感じる光だが、効果は何も起きない。
「それ、死霊にしか効かないよね」
「わかってるけど、かっこいいでしょ!」
二人揃って実用性のないポンコツ。笑い合いながら魔法の訓練を続けた。最後に設備の魔石に魔力を流して生成した温水と温風で、汗を流して服を乾かす。そして、ギルドへ向かう道を並んで歩き出した。
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