種族ガチャハズレでも生きてるんです、
井理山さき
第0話 プロローグ
森ゴブリンは、身長1〜1.5メートルほどの小柄な生物で、主に洞窟を住処としていた。彼らは社会を持ち、それぞれの役割を担っている。戦士は狩りや領地の拡大を担当し、職人は武器を製造し、産母は子を産み育てる。しかし、稀にその枠から外れた個体が生まれることがあった。これらは「上位種」と呼ばれ、通常のゴブリンを凌駕する身体能力や知性、さらには脅威的な再生能力を持っていた。
ナートラフの森の外周近くにある洞窟。その内部は蟻の巣のように複雑な構造をしており、通路がいくつもの空間を繋いでいる。その中の一つ、歪なドーム状の空間で、一体のゴブリンが壁画を描いていた。
薄明かりを放つ光キノコに照らされたその絵は、人間たちによるゴブリン虐殺際の光景を描き出していた。
ゴブリンは本能的に集団を拡大し、領地を広げようとする。しかし、人間たちが五年周期で行うこの虐殺祭は、常にそれを阻む壁となっていた。この上位種のゴブリンも、その恐怖と理不尽を幾度も見てきた。そして、それを記憶に刻み込み、壁画に描いて考え続けていた。
どうすれば人間たちに復讐できるのか。どうすれば同じ苦しみを与えられるのか。どうすれば人間側の戦士を討ち取れるのかーー。
彼はその答えを見つけるため、戦士たちに犠牲を強いてきた。上位種の命令は絶対である。ゴブリンたちは本能的にそれを知っている。それでも、彼は描く手を止めるたびに、犠牲となった戦士たちの姿が脳裏をよぎる。
死を覚悟しながらも人間たちに立ち向かい、無惨に倒れる仲間たちの姿を。
意気込んで斬り伏せられた者、槍に貫かれながらも歩みを止めなかった者、矢で倒れたところを追撃される者。
彼は知っていた。すべてが情報を得るための犠牲だったとはいえ、それを無駄にすることは許されない。重い責任を背負い、失敗は許されないのだ。
彼は再び心を奮い立たせる。復讐の日は、もうすぐそこまで来ている。五度目の白い花の開花が迫っていた。準備は整った。次は、こちらが蹂躙する番だ。一人たりとも生きて帰すつもりはない。人間たちに、我々がただ虐げられる存在ではないことを叩き込んでやる。
数日後、彼は300を超える戦士と数体の上位種を前に立ち、壁画に描いた作戦を語った。その声には、迷いは微塵もなかった。
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