第6話
『夢なのか?』
生徒たちは食堂のど真ん中で繰り広げられる光景を目の当たりにし、目を疑った。
それほどまでに現実離れした状況だった。
料理を全身に浴びた2人の少年が食器を投げ合いながら暴れ回っていたのだ。
豪華な料理の数々が四方八方に飛び散った。
ちょうどその時、食堂に到着した教師が急いで仲裁に入らなければ、今日の昼食をカップラーメンで済ませることになる生徒が多かっただろう。
「2人とも、罰点10点を課す!」
「は?」
「……。」
ジェヒョクとドジンは肩を並べて、しょんぼりとうなだれた。
* * *
ジェヒョクの魂は半分ほど抜けかけていた。
口に詰め込んだパンを咀嚼して飲み込むこともせず、新しいパンを次々と押し込んでいく。
『登校して半日で罰点20点…』
これ、もしかして…。
『少し…いや、かなり危険な状況じゃないか?』
自分が。
ヤチャの唯一無二の血筋であり、正当な後継者であるこのカン・ジェヒョクが、たかが罰点ごときで危機に立たされるなんて?
『キム・ジンミョン、パク・ゴソ…。』
ギリッ!
奥歯を噛み締め、口いっぱいに詰まったパンを力任せに粉砕しながら、罰点を課した教師たちの顔を思い浮かべた。
『どちらも弱そうには見えないけど…』
それでも、数日前に自宅を襲撃した無法者と同じレベル。
奇襲を仕掛ければ、絶対に勝てる自信がある。
『助けてくださいって泣き叫ぶまで叩き続ければ、罰点記録を消してくれるんじゃないか?』
登校初日に教師を尊敬する気持ちが芽生えるはずもなかった。
そもそも、学校という場所に通った経験がないジェヒョクにとって、教師も生徒も大差ない存在でしかなかったのだ。
『まずは動線を把握して、人目のない場所で拉致して…』
「罰点をなくす方法がある。」
真剣に計画を練っていたジェヒョクがふと我に返った。
向かい側でお粥を啜っていたチビが、真剣な表情で語り始めた。
「罰点をつけた教師を殺して、成績記録を消去すればいいんだ。」
「…」
「実行は俺がやる。ただ、俺の武器はちょっと派手だから…お前が近くで見張りでもしとけ。」
ペク・ドジンの声は依然として怒りに震えていた。まるで唸り声を上げる獣のようだった。ライオンのたてがみを模した帽子を被ったチワワとでも言うべきか?
「今、何考えてやがった?お前から殺してやろうか?」
ペク・ドジンは感覚も鋭かった。
ジェヒョクの半開きの目つきを見ただけで殺気を放つ。
だが、ジェヒョクがひるむわけもなかった。
軽く肩をすくめ、鼻で笑ってみせた。
「人を殺すって言葉をあまりにも軽く使うなよ。ガキが。」
「…軽くなんて使ってない。死の重さは十分に理解してる。」
また激昂するかと思いきや。
意外にもペク・ドジンは冷静に答えた。その表情に浮かぶ怒り、不安、憂いがジェヒョクの感覚にくっきりと映る。
どうやら普通の事情ではなさそうだ。
ジェヒョクはパンのかけらを放り投げた。
「ほらよ、このどうしようもない奴め。それが分かってるくせに、たかが罰点のために人を殺そうなんて?」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ?俺の罰点はもう45点だ。このままだと退学は免れない。」
「はあ?おいおい、マジで救いようがないな。入学式って10日前じゃなかったか?10日で罰点が45点も溜まるってどういう発想なんだよ?」
「どんなバカが入学して10日で罰点を45点も貯めるって?俺は2年生だ。」
「2年生?お前が?」
「キャアァァ!」
バシバシッ!
幸運にも(?)ジェヒョクも、ドジンも追い詰められた立場だった。
「……」
ジェヒョクの混乱が一層深まった。
パンを頬張りながらも呑み込むことを忘れ、新たなパンを口に押し込むだけ。
「登校して半日で罰点20点……」
これはもしかして……。
「少し……いや、かなりヤバいんじゃないか?」
自分が。
ヤチャ家の唯一(?)の血筋であり、正当な後継者であるカン・ジェヒョクが、たかが罰点ごときで窮地に立たされるとは。
「キム・ジンミョン、パク・ゴソ……」
ギリッ!
歯を噛みしめ、パンを口内で粉々にしながら、罰点をつけた教師たちの顔を思い浮かべるジェヒョク。
「どっちも弱そうではないが……」
せいぜい、先日屋敷を襲撃した盗賊たちと同レベル。
先手を打てば必勝の自信がある。
「命乞いするまでボコれば、罰点の記録を削除してくれるかもしれない。」
登校初日に教師を尊敬する気持ちが生まれるはずもなく。
そもそも学校に通った経験がないジェヒョクにとって、教師も生徒もただの相手でしかなかった。
「まずは動線を把握して、人目のないところで拉致して……」
「罰点を消す方法があるぞ。」
真剣に計画を立てていたジェヒョクが、ふと現実に引き戻された。
向かいでお粥をすすっていたチビが、真面目な表情で言った。
「罰点をつけた教師を殺して成績記録を消せばいい。」
「……」
ジェヒョクは無言でチビを見つめた。
その目には、呆れとともにほんの少しの興味が含まれている。
「実行は俺がする。ただ、俺の武器は少し派手だから……お前が近くで見張りをしろ。」
赤髪の少年、ペク・ドジンの声はまだ怒りで震えていた。
唸る野獣のようだった。
例えるなら、ライオンの鬣(たてがみ)の帽子をかぶったチワワ?
「今、何を考えた? まずお前から片付けてやろうか?」
ドジンは感覚が鋭い。
ジェヒョクの半眼の視線を見抜くと、すぐさま殺意を込めた眼光を放った。
だが、ジェヒョクが萎縮するはずもない。
軽く肩をすくめて鼻で笑う。
「人を殺すなんて、簡単に言うものじゃないぞ、小僧。」
「……簡単に言っているつもりはない。死の重みは十分に理解している。」
当然、また怒りを爆発させるかと思いきや。
意外にもドジンの返答は冷静だった。
その表情には、怒りや焦り、そして深い憂いが垣間見えた。
ジェヒョクはパンのかけらを投げた。
「ほら、このクソガキめ。死の重さを知ってるくせに、たかが罰点で人を殺そうだなんて?」
「じゃあ、どうしろって言うんだ? 俺の罰点はすでに45点だ。このままじゃ退学を免れる術がない。」
「……すげぇな。入学式からまだ10日くらいしか経ってないんじゃないのか? それで罰点が45点も?」
「そんな発想ができるやつがどこにいる? どんなバカが入学して10日で45点も罰点をもらうんだ? 俺は2年生だ。」
「2年生? お前が?」
「キャア!」
ゴツン!
不幸にも(?)ジェヒョクもドジンも、共に崖っぷちの状況にいた。
再び激しいやり取りが始まるも、幸運にもパンの投げ合いで事態は収束した。
二人はパンを交換し終え、ようやく席に着いた。
今回の騒動は、これまでのように教師が駆けつけるような大ごとにはならなかった。
そのおかげで、二人の戦いは平和(?)的に終わり、ジェヒョクは自信満々に勝利を宣言した。
「俺が8個多く食べたから、俺の勝ちだ。」
「くっそ……これも負けるなんて……。」
二人の少年は、お互いにどこか通じ合う部分があると感じていた。
張り詰めていた言葉のトーンが徐々に柔らかくなった。
「勝者として忠告するけど、簡単に人を殺しちゃダメだぞ。正当防衛が成立しない限りは刑務所行きだ。」
「だが悪い奴は殺されても文句言えないだろう?」
「まぁ、そうだな。けど、罰点をくれたからって悪い奴だとは限らない。俺たちが規則を破ったのも事実だし。」
「でもな、これまで一度に10点も罰点を食らったのは見たことがないぞ。あれは不当な処罰だ、明らかに悪意がある。」
「……罰点の最低値って10点じゃないのか?」
「普通は1点から3点だ。」
「……殺すか?」
「……。」
ジェヒョクの顔が引きつった。
食べていたパンを噛む手も止まり、考え込むように眉間にシワを寄せた。
「……とりあえず、パク・コソは適当に手を打とう。まずは穏便に記録を削除してもらうよう説得するんだ。」
「説得が無理だったら?」
「その時はまぁ……。」
「分かった、それがもっともらしい案だ。」
「いやいや! どこがもっともらしいんだよ!?」
真剣に計画を立てるジェヒョクとドジンの前に、一人の少女が割り込んできた。
同じテーブルに座っていた、新入生のチェ・ダヒだった。
彼女は二人の言い合いを聞いている間、何度も首を傾げていた。
これまで見たことのないほど困惑した表情を浮かべ、ようやく声を上げた。
「先生を殺すとか、手を加えるとか……それが学生のすることですか!?」
ドジンがダヒの方をチラリと見て、ぼそりと呟いた。
「こいつ、ちょっとおかしいんじゃねぇのか……?」
意外なことに、ジェヒョクがダヒを庇った。
「具合の悪い人にそんなこと言っちゃダメだ。」
「確かに……それは失礼したな。それで、こいつはどうする?」
「この前会った強盗が言うには、目撃者は残しちゃいけないらしいぞ。」
「ひぃぃぃぃ!」
チェ・ダヒは市民を守るために覚醒した、真面目で正義感の強い少女だった。
しかし今の彼女にとって、正義感よりも命が大事だった。
「お願いですから、命だけはお助けを!」
「なんだよ……冗談も通じないのか?」
「そ、そうだ。全部冗談だ。」
明らかに焦り始めたジェヒョクとドジンは、目を逸らして誤魔化すようにそっぽを向いた。
誰が見ても、場を取り繕うための下手な演技だった。
「ふ、ふざけないでください! そんなことが学生のやることですか!?」
怒りが収まらない様子のダヒが、涙目になりながら言い返した。
しかしジェヒョクは、そんな彼女を安心させるような優しい表情で応じた。
「心配すんな。」
「……え?」
「悪いことはしない。俺たちは、ただ罰点を帳消しにする方法を探してるだけだ。」
言葉は優しかったが、その内容は全く救いようがなかった。
ダヒの顔が再び困惑に染まる。
「えっと……罰点は試験や訓練で高い成績を取れば、学点で帳消しにできますよ?」
「そうか、それなら心配いらないな。」
ジェヒョクは興味を示したが、ドジンの表情は一気に曇った。
「簡単にできりゃ、俺の罰点が45点も溜まるわけねぇだろ!」
「それは意外だな。お前の実力なら、実習で高得点を取れると思ったけど?」
「う、うるせぇ! 俺は強いが万能じゃねぇんだ。分野によっては、俺より上手い奴だっている。」
「笑うなら笑えよ。怒るなら怒るでどっちかにしろ。」
ドジンの苛立ちを一蹴しながら、ジェヒョクは言葉を続けた。
「安心しろよ。俺がその急場をしのいでやるからさ。」
「……どういうことだ?」
「お前がもっと自分の体を上手く使えるように俺が助けてやる。その代わり、お前は俺のチームに入れ。」
ライオンの城では、チーム単位の授業や大会が常時行われている。
大会で優勝すれば、報酬として貴重なポーションが与えられることもある。
ジェヒョクにとって、まず優先すべきは使えるメンバーを集めることだった。
「……お前が、俺を指導するのか?」
1年生が2年生を指導するなんてあり得ない話だ。
だが、先ほどの戦いでジェヒョクの実力を目の当たりにしたドジンは、簡単に納得した。
「まぁ、お前がどうしてもって言うなら、仕方ねぇな……。俺の方こそ、よろしく頼むぜ!」
やけに素直なドジンを見て、ジェヒョクは不思議そうに目を細めた。
「ところで、一つ聞きたいんだけど……なんで俺を次席だと思ってるんだ?」
「だって、今年はシンラ家の後継者が入学してるだろ?」
「シンラ家……なるほど。それなら仕方ないか。俺より数段上だろうな。」
ジェヒョクは素直に認めた。
シンラ公爵家は、歴代の国宝級プレイヤーを輩出してきた名門中の名門だ。
いくら強大な一族を持つジェヒョクでも、覚醒すらしていない現状ではシンラ家の後継者には到底及ばない。
「だけど、なんでそんな奴がここに入学したんだ? ガードを引き連れてゲートを回る方が、もっと効率よく成長できるはずだろ?」
「人脈を作ってリーダーシップを学ぶためじゃないか?」
「ここで人脈を? ……ふむ。」
一見納得のいく説明だったが、ジェヒョクの胸の奥には、何か違う目的があるような予感が残った。
「それより……。」
雰囲気が和らいだところで、ダヒが手を挙げた。
「次席は……私です。」
「……?」
「……新入生次席……です。」
「……?」
ジェヒョクとドジンの視線がダヒに集中した。
その視線を感じ取ったダヒが、ふくれっ面で唇を尖らせた。
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