幼馴染みが悪役令息だった
岩上翠
第1話
それを思い出したのは、レヴィとの魔法の実験中だった。
私の氷魔法と、レヴィの炎魔法を同じ出力でぶつけたら、氷が炎で溶けて「水」が得られるか?
そんな子どものようなレヴィの思い付きを実際に検証し、溶けた水と高温の炎が水蒸気爆発を起こし二人で吹っ飛ばされて実験室の壁に激突したときに、私は思い出したのだ。
「……あれ……レヴィ・ダウニングって……あのゲームに出てくる悪役令息キャラの名前じゃない……?」
「は? 何を言ってるんだステラ? 打ち所でも悪かったのか?」
実験中は全身に防護魔法をかけているから、二人とも怪我は最小限で済んでいる。
とはいえ壁に激突すればやはり痛い。
蘇ったこの記憶は、レヴィの言う通り打ち所が悪くて白昼夢でも見ているせいだと思いたい、けれども。
すぐに立ち上がり、怪訝な顔をしながら私に手を差し伸べた幼馴染みのレヴィ・ダウニングは。
艶やかな紫色の長髪を左肩で緩くまとめ、やや面長の知的かつアンニュイな白皙の美貌を持ち、膨大な魔力を制御するための魔道具である耳飾りを着け、ひょろっとした長身痩躯に白衣をまとい、少し心配そうに私の様子を窺っていて。
―――そのすべてのビジュアルが、レヴィは間違いなく私が前世でプレイした乙女ゲームの登場人物、しかもバッドエンド確定のヤンデレ悪役令息だと主張している。
「……ああ、終わったわ。レヴィがヒロインに横恋慕したあげく無理心中しようとして王太子に国外追放される固定イベントは回避不能だし、そうなったら私も完璧に耐魔法処理されているこの実験室を使えなくなって将来は魔法博士になるという夢も叶わなくなってしまう……」
「だからさっきから何を言ってるんだ? 無理心中? 国外追放? ……ステラ、君は一体何をやらかしたんだ? それとも本当に具合が悪いのか?」
レヴィは私の手を引っ張って立たせ、熱でもあるのかと額に手を当てた。
ひんやりとした大きな手の感触に、混乱している私の頭も少しだけ落ち着きを取りもどす。
「……いいえ、私は大丈夫よ。ごめんなさい、急用を思い出したので、今日はこれで失礼するわ」
「待て、ステラ! まだ実験は終わってない! 俺の炎魔法の出力を20%ほど小さくしたら次はきっと……」
呼び止めるレヴィの声も耳に入らず、私は呆然としたままダウニング邸の実験室を後にした。
王都にあるレヴィの公爵邸と、私の実家の侯爵邸は、隣同士だ。
といっても互いの玄関から玄関までは、長いアプローチやら広大な庭やら壮麗な並木道やらを通らなければならないから、馬車でも10分はかかるけど。
そんな地理的事情と、レヴィと私がどちらも魔法の才能に恵まれた稀少な子どもだったという特殊な事情が合わさって、互いに7歳だった頃から、私は公爵邸の魔法実験室へ毎日のように入り浸っている。
この国に魔法を使える子どもは多くないし、そうした子どもを指導し才能を伸ばせる大人はもっと少ない。
そして子どもの魔法の才能を伸ばすためには、設備も教育も恐ろしく金がかかるのだ。
端的に言えば、侯爵家とは名ばかりの貧乏貴族であるわが家の両親は、隣の裕福な公爵家の同い年の坊ちゃんが魔法の才能に満ち溢れているのをいいことに、「うちの娘も魔法の才能があるようですから、そちらのお坊ちゃんの遊び相手にどうぞ~」と、公爵家がレヴィのために莫大な費用をかけて増設し耐魔法工事を施した頑丈な魔法実験室に、私を放り込んだのである。
しかも、レヴィの魔法の家庭教師に、私までちゃっかりと弟子入りさせて。
お持たせの菓子程度で毎日毎日娘を隣家に押しつける私の両親の図々しさと、才能溢れてもはや魔法オタクとなった息子を少々持て余していた公爵家のご両親の思惑が見事に合致し、私とレヴィは意気投合して共に魔法の道を突き進む同志となった。
それは私たちがロイヤルアカデミーに入学して2年目、17歳となった今現在でも続いていて、放課後や週末は決まって私が実験室へ行き、共に魔法の探求にいそしむのが日課となっていた。
だけどその関係も、まもなくゲームのヒロインが男爵家に引き取られロイヤルアカデミーの一学年下に転入してきて、レヴィがヒロインに恋をしてヤンデレ化し無理心中未遂イベントを起こしてしまったら、完全に終わってしまう。
ちなみに私、ステラ・グリーンウッドは、ゲーム中に名前すら出てこない、水色の髪と瞳の、モブ以下のただの令嬢である。
さすがにレヴィが国外追放された後にまで公爵家の実験室を使わせてもらうほど、私は鉄面皮ではない。
レヴィと二人でこつこつと積み上げてきた今までの炎魔法や氷魔法の実験結果も、彼がいなくては共同名義で発表することはできないし、そもそも私が今それなりに魔法学界隈で名を知られているのも、彼がずっと側にいて様々なアドバイスをくれたおかげでもある。
だから、ロイヤルアカデミーを卒業後はこの国の魔法研究の最高学府である魔法アカデミーに進学し、それから魔法博士になるという私の夢も、天才魔法青年と名高いレヴィ・ダウニングという存在がなければ画竜点睛を欠くというか、どうにも座りの悪いものになってしまうのだ。
ある意味、私の運命共同体と言えるレヴィの破滅は、なんとしても阻止せねばならない。
……それに、幼馴染みが破滅するところを見るなんて、できれば遠慮願いたいし。
破滅阻止のためにまず試したのは、レヴィに最終学年をスキップさせ、そもそもヒロインと出会わないようにする、という作戦だ。
次の日、私は何食わぬ顔で実験室へ行った。
「ステラ、遅かったじゃないか! さあ、昨日の実験の続きをしよう!」
「ちょっと待って、レヴィ。今日は話があって来たの。魔法アカデミーに入ったらゴールドウィン先生に師事したいって、レヴィは前から言ってたわよね? 実は、ゴールドウィン先生は来年度で魔法アカデミーを退任されるらしいの」
「……本当か?」
実験を再開できるとうきうきしていたレヴィの顔が、私の言葉でさっと翳る。
よし。
貧乏だが顔の広いわが侯爵家の情報網は健在だ。
お父様とお母様に頼んだら、まだ一般には広まっていないこの話を半日でゲットしてくれた。私の両親はただの図々しい貴族ではなく、したたかな貴族でもあるのだ。
炎魔法の大家であり、水と風の魔法も操れるという規格外の大魔法使い、ゴールドウィン先生の下で魔法の高等研究をするというのは、レヴィの昔からの夢だった。
それを利用するのはちょっと心が痛むけど、これもレヴィ自身を守るためだ。
「そうよ。だからレヴィは次の最終学年をスキップして、今すぐにでも魔法アカデミーに入って、ゴールドウィン先生に教わった方がいいと思うの」
天才魔法青年レヴィは、まだ小さかった頃から魔法アカデミーの学長にかわいがられていて、「君がうちの魔法アカデミーに入るのを楽しみにしてるよ。なんなら今すぐにでも入学させてあげる」と言われているほどだ。
けれど、レヴィはなぜか顔を曇らせ、首を横に振った。
「ステラが言うなら間違いはないんだろうが……俺にはまだロイヤルアカデミーでやり残したことがあるから。ゴールドウィン先生のことは残念だが、個人的にやり取りもしてるし、無理にスキップまでするほどじゃない」
「……はあぁっ!?」
「それより、昨日の実験の続きだ。ステラ、防護魔法をかけるから、そこに立って」
てきぱきと指示されて、私は呆然としたまま実験に付き合わされた。
天才魔法青年をなめていた。
魔法アカデミーの学長とさえズブズブなのだ。大魔法使いとはいえ、一教員であるゴールドウィン先生とだってすでに親交があっても、何も不思議じゃない。
それにしても、レヴィのやり残したことってなんだろう?
どうせ魔法絡みのことだろうけど、初耳だ。これもお父様とお母様に聞いたらわかるだろうか。
ぐぬぬ、と歯ぎしりして氷魔法を発動させながら、私は次の手を考えていた。
二つ目の作戦は、しばらくの間、レヴィを休学させるというものだ。
公爵邸には設備の整った魔法実験室があるけれど、レヴィはフィールドワークにも情熱を燃やしている。
この間も「侯爵領にのみ生息するという火吹き鳥を捕まえて、嘴から放射する炎を魔法で強化したガラス瓶に保存できるか試したい」と言っていた。
だからレヴィに半年ほどロイヤルアカデミーを休学してもらい、王都から遠く離れたうちの侯爵領へ招待して、気の済むまで火吹き鳥を捕獲させ実験させてあげたらいいのではないか。
さいわい、火吹き鳥は幻の鳥と呼ばれ、滅多にお目にかかれないことで有名だ。
そしてレヴィのいない間に、転入してきたヒロインが誰かとくっついてくれたら万々歳である。
私は意気込んで実験室へ向かった。
「半年休学して侯爵領へ行き、火吹き鳥を捕まえろ? 冗談だろう。断る」
「え? な、なんで? だってあんなにやりたがってたじゃない! うちの両親の許可ももらったし、レヴィは卒業のための単位はもう足りてるんでしょう? 何も問題は……」
レヴィはジトッとした目で私を見た。
「……火吹き鳥の肉はものすごく美味いらしいな?」
「た、食べたいわけじゃないからねっ!?」
「じゃあなぜだ? 火吹き鳥の実験はいつかやるつもりだが、今すぐでなくてもいい。それに、俺の単位は足りているが、君は……」
「私? どうして私の話になるのよ?」
きょとんとして尋ねると、レヴィはむっとした顔になった。
「……火吹き鳥の弱点は氷だし、炎を保存したガラス瓶を冷却するためにも君の氷魔法は不可欠だろう。君が一緒に行くというなら、侯爵領行きを考えてもいいが?」
「なっ……そ、そんなことできるわけないでしょう!」
私は真っ赤になって否定した。
いくら幼馴染みとはいえ、年頃の男女が二人きりで遠く離れた領地の城に滞在するなど、ありえない。
レヴィの美しい双眸が、険を増して私をにらむ。
「それならこの話はもう終わりだ。大体この間からスキップだの休学だのと……ステラはそんなに俺を遠ざけたいのか?」
「へっ? 違うわよ、私はただ……」
その先の言葉は見つからなかった。
ゲームのことやヒロインのことを、レヴィに話すわけにはいかない。
彼は前世なんていう不確実なものは信じないし、ましてや自分がヤンデレ悪役令息になってヒロインと心中しようとするなんて、死んでも認めないだろう。
……あれ? でも、どうしてレヴィは急にヤンデレになったんだっけ?
今のレヴィは極度の魔法オタクだけど、誰か一人の人間に病的に執着するようなことはない。
ゲームの内容を思い出そうとしても、そのあたりの部分はもやがかかったようにぼやけてしまう。
「そんなことより実験だ。今日は炎の連続燃焼時間を調べるんだが……」
レヴィが説明をはじめたけれど、私の頭の中には半分も入ってこなかった。
最後の手段は、レヴィをヒロイン以外の他の令嬢と婚約させてしまう、というものだった。
きっとヒロインがレヴィをあまりにも骨抜きにしてしまったために、あんな悲劇が起こるのだ。
そうなる前に、さっさと他の女性とくっつけてしまえばいい。
そもそもレヴィが女性と恋に落ちるところなど想像がつかないというか、そんなところを想像しただけで、なぜか、胃がむかむかしてくるのだけど……。
胃のあたりを手で押さえながらうちの両親に「レヴィの結婚相手としてふさわしい貴族令嬢のリストを作ってくださいませんか?」とお願いすると、二人はなぜか生温かい表情で私を見つめ、了承してくれた。
「レヴィ、ぜひ紹介したい令嬢がいるの。隣のクラスで、伯爵家の次女で、魔法に理解のある、頭が良くてきれいな子よ。今日の放課後、三人で大通りのカフェテラスに行ってお茶でもしない?」
授業が終わり、一緒に帰ろうと私のクラスまで迎えに来たレヴィに、私はひといきに告げた。
周囲にいたクラスメイトたちはぴたりと雑談をやめ、何事かとこちらを横目で窺っている。
レヴィは目元に皺を寄せて私を見下ろした。
「……は? 今日は昨日の実験の仕上げをする予定だろう。なぜ貴重な時間を、見知らぬ令嬢とお茶を飲むことなどに費やさねばならないんだ…………ああ、そうか。彼女は魔法実験に必要な人材なんだな? そういえば時間を計るアシスタントが欲しかったんだ。では、今からその令嬢に頼みに……」
「駄目ーーーっ!!」
隣のクラスへ行こうとするのを、必死に止める。
レヴィは不審者でも見るような顔で、彼にしがみつく私を見た。
……いや、これは全て、あなたのためなんですからね?
「レヴィ……私、とっても喉が渇いていて……」
彼は自分のバッグから水の入ったフラスクを出し、「まだ口をつけていない」と言って私に差しだした。
優しい。だが、そういうことじゃない。
「ありがとう。でも水ではなくお茶が飲みたい気分なの。今日は実験ではなく、お茶を飲みに行きましょう?」
「断る。君はこの頃おかしいぞ、ステラ。以前は魔法博士になりたいとわき目も振らず魔法研究に邁進していたのに……もしかして、何か悩みでもあるのか? 今後進むべき魔法の道について迷っているなら、同志としていつでも相談に乗るぞ?」
クラスメイトの誰かが、クスクスと笑った。
恥ずかしくて頬が熱くなる。
レヴィが魔法オタクなのはわかっていたけど、これほどまでとは思わなかった。
せっかく恥を忍んで隣のクラスの伯爵令嬢に頼み込み、お茶のセッティングまでしたのに。
私一人で空回りをして、馬鹿みたいだ。
顔を伏せ、両手をぎゅっと握りしめる。
「ステラ? ……どうした、具合でも悪いのか? すぐに保健室に……」
「もういい、放してっ!」
掴まれた腕を振り払い、私は教室から駆けだした。
学園を飛び出して王都の大通りへ出る。
いつもはレヴィと馬車で帰るけど、今日はとてもじゃないがそんな気にはなれない。
怒りに任せてひたすら走った。
もちろん貴族令嬢としてはあるまじき行為だ。
すると、背後から聞き慣れた声がした。
「ステラ!」
ぎょっとして振り向くと、
レヴィが走って私を追いかけてくる!
しかもインドア派のくせに結構足が速い!!
ど、どういうこと?
いつものレヴィなら、私の事など放っておいて、一人で実験室に向かい、好きなだけ魔法の実験をするはずなのに。
焦った私は、速度を上げて振り切ろうとした。
大通りの人混みをかいくぐり、交差点を曲がろうとして―――
猛スピードでこちらへ突進してくる二頭立ての馬車が、目に飛び込んだ。
あ、これは轢かれる。
速いはずなのにやたらゆっくりと鮮明に目に映る二頭の馬を眺めながら、
私はようやく、あのゲームの中でレヴィがなぜヤンデレ悪役令息になったのかを思い出した。
ヒロインがロイヤルアカデミーに転入する直前。
幼馴染みで親しい研究仲間だった貴族令嬢―――つまり私―――が、馬車の事故で亡くなったから。
だからレヴィ・ダウニングは、ゲームの登場時からすでにヤンデレ化していたのだ。
ゲームの中では無口で、社交性ゼロで、
彼があんな風になった理由は、私が死んでしまったからだったんだ。
ごめんね、レヴィ。
今わかっても、遅すぎるけど―――
暴走する馬が目と鼻の先に迫って、私は思い切り目をつぶった。
周囲の人々から悲鳴が上がり。
私は激しい衝撃を覚悟した。
―――けれど、それは拍子抜けするほど優しい、ぽよん、と弾むゴムボールのような感触で。
目を開くと、私はレヴィの腕の中にいた。
馬車はとっくに遠ざかり、辺りには砂ぼこりが立ち込めている。
「あ……あれ? レヴィ? どうして……?」
「………………防護魔法、だ…………」
なぜかレヴィは息を切らし、口を開くのもやっとといった様子で、そう言った。
息が上がり、整った顔が青ざめ、額を汗が伝い。
魔力制御の耳飾りが、壊れている。
レヴィは魔力切れを起こしていた。
ああ、そうか。
レヴィは持てる魔力を全て使い、私に防護魔法をかけてくれたんだ。
「……ありがとう、レヴィ」
まだレヴィの側で生きていられることが嬉しくて。
ぐったりして荒い呼吸をしている彼を、私はぎゅっと抱きしめた。
そしたら、レヴィも私以上に強く、抱き返してくれた。
それ以降、レヴィは私に対してとても過保護になった。
ヤンデレ化した、と言っても過言ではないかもしれない。
ゲーム中でヒロインに対してするような執着を幼馴染みの私に見せるので、対応に困ってしまう。
「ステラ。今日の実験が終わったら、そのままうちに泊まるといい。もう日が暮れるのも早くなったし、王都は物騒だからな。寝間着も明日着る服も、もう用意させてあるから」
「……いえ、普通に帰るわよ? 隣だし」
けれど、断ると捨てられた大型犬のような顔をしてこっちを見てくるので、ついいつも絆されて、頷いてしまう。
というか、玄関ホールにつながる廊下に、さりげなく魔法で火球を出して道を塞いでおくのはやめてほしい。実質、泊まるか火だるまかの二択だ。
いくら幼馴染みと言っても、こんなに入り浸りまくっていては、さすがにレヴィのご両親にも愛想を尽かされてしまうんじゃないかと思うのだけど。
なんと私は、公爵家から正式に、レヴィとの婚約を申し込まれてしまった。
実は、レヴィのご両親は「極度の魔法オタクであるうちの息子の嫁は、隣のステラちゃんしかいない」と昔から思っていてくれたらしく、かなり小さな頃から私の両親と内々に、将来二人を結婚させようという約束を取り交わしていたらしい。
レヴィもそのことを知っていて、ずいぶん前から、私のことを婚約者と心に決めていたのだという。
私にとっては初耳なことばかりで、ちょっと憤慨したけど、でも。
レヴィと結婚するのは嫌じゃない。
むしろ、馬車に轢かれそうなところを助けてもらってからは、今まで何とも思わなかった彼のきれいな顔立ちや低い声や頭の良さや、さりげなく私を気遣ってくれる優しいところや、でもやっぱりちょっとズレてるところなんかが、とても魅力的なものに思えてきて―――つまり、私はレヴィのことが好きなんだと、自覚した。
こうして私たちは、正式に婚約を交わしたのだった。
その後、ヒロインが転入してきて数か月が経ったけれど。
レヴィと私は、相変わらず毎日のように魔法の実験を行っている。
「あれ? そういえば、レヴィがロイヤルアカデミーでやり残したことって何だったの?」
「……ステラ、実験に集中しろ。氷柱の生成が止まっているぞ」
「気になって集中できないわ。ねえ、何だったの?」
実験を中断してレヴィの顔をのぞき込むと、白皙の美青年は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「………………君を残して俺だけ魔法アカデミーへなんて、行けるわけがないだろう。俺のいない空間で君が他の男と過ごしているなんて、想像するだけで耐えられない。それに……好きな人と24時間365日いつでも一緒にいたいと思うのは、当然だろう?」
……当然……なのかしら?
疑問だが、レヴィの目元がほんのりと赤くなっているのを見て、私もつられて赤面する。
固まった私を見つめたまま、レヴィが顔を近づけて。
そして、壊れものにでも触れるように、そっと口づけをした。
ロイヤルアカデミーの卒業式直前。
会ったこともないヒロインが、男爵家に出入りしている庭師の青年と駆け落ちした、という衝撃的な噂を耳にした。
一体何があったのか、毎日のようにレヴィと実験室に閉じ籠もり、魔法の研究をしていた私にはよくわからないけれど、とにかく。
私の幼馴染みは、どうやら悪役令息にならずに済んだようだ。
幼馴染みが悪役令息だった 岩上翠 @iwasui
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