第5話
エレーネは誘い師について語った。
それによると、この世に未練を残したウォドセフのような幽霊が、悪霊になる前に天に帰ってもらえるようにすることが仕事で、だからこそ、エレーネはウォドセフから母親への未練を感じ取り、この故郷の村まで導くことができたのだという。
本来ならば、ここでエレーネを通して母親と言葉を交わすことができれば、ウォドセフは未練を解消できた。しかし、母親はウォドセフの死を聞いた後、海に身を投げてしまった。そして、その未練は彼女を悪霊と化し、ウォドセフの帰りを待っていたのである。
「じゃあ、母さんは悪霊になったと……」
「そういうことになるね」
「そしたら、どうするの?」
「倒すしかない」
「倒したら……?」
「この世から魂ごと消え去ってしまう」
「俺も倒す?」
「このままだとそうなるね」
「じゃあ、倒してよ」
「だめだ」
「なんで?」
「君はまだ悪霊じゃない」
「でも、いつかなる。母さんがああなったのなら、もう未練が解消されることはない。そうでしょ?」
「うん。でも、諦めてはいけない」
「なんで。もう無理だよ」
「無理じゃないよ」
「無理なんだよ!」
ウォドセフは怒鳴った。
「もう、無理なんだよ。俺は一生、こうやって漂い続けることになる。あいつらみたいに誰かを襲うことになる。だったら、今、もう一度殺してくれよ。お願いします……」
ウォドセフはエレーネ足元で、涙を流して頭を下げた。
「ふざけんな……」
エレーネは小さく呟いた。そして、ウォドセフの胸倉をつかみ、持ち上げた。
「ふざけるなよ! まだ、伝えられるんだぞ。まだ、お前の母さんはそこにいるんだぞ。まだ、チャンスはあるんだよ。
いいか、どんなに魔法を極めても、もうここにいない人の声は聞けないんだよ。何かを伝えることもできないんだよ。それができるのは、今、ここにいる人間だけだ。お前は幽霊だが、まだここにいる。お前の母親も、悪霊だがまだここにいる。まだ、チャンスはあるんだ! それを何もしようともせず、諦めてんじゃねえよ!」
エレーネはウォドセフを投げ飛ばす。
こんなにも感情的なエレーネを見たのは初めてだった。
ウォドセフは自分が情けなかった。
ずっと何かを言い訳にしてきた。体が小さいから、村人たちが悪いから、父親が早くに死んだから。そして、死んだ後まで言い訳だらけ。なんて情けねえんだ。
ウォドセフは立ち上がった。そして、エレーネを力強く見つめ返す。
「どうしたらいい?」
エレーネはそれを見て小さく微笑んだ。
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