第2話

「いつまでついてくるんだよ。言ってるだろ、俺は迷子じゃないって。子ども扱いするのやめろよな」


 ウォドセフは後ろからついてくるエレーネに怒鳴った。


「子ども扱いなんてしてないよー。でも、さっきから同じところをぐるぐる回ってるよ。お姉さんが道教えてあげるからさ」

「それが、子ども扱いってんだよ! いいからついて来んな」


 ウォドセフは腹を立て、エレーネを引き離そうと足早に歩く。歩くうちにエレーネに頭を撫でられたことや、名前を大笑いされたことにも余計に腹が立ってきた。


 しばらくはブツブツ文句を言いながら歩き、ふと我に返って冷静になると、途端に不安に襲われた。霧のせいで視界は悪く、いつまたあの悪霊に襲われるか分からない。それに、向かっている方角もこれであっているのかどうか。


 ウォドセフはそっと後ろを見た。そこにはまだエレーネの姿があった。しかも、この状況を全く怖がっていないばかりか、楽しんですらいるようだった。

 ウォドセフはあんなことを言っておきながら、思わず安心してしまった。


 それから、ウォドセフの体感で三時間ほど歩き続けたが、一向に霧が晴れる様子も、戦争の跡地から抜け出す兆しもなかった。

 もう一度進むべき方角をよく考えようかと思い始めたころ、目の前に見覚えのある巨大な剣が地面に刺さっていた。


 ウォドセフはその剣に何の気なしに触れ、数秒後、思い出して即座に振り返った。しかし、エレーネはもう剣の傍らにいて、ウォドセフをにやにやと見下ろしている。


「これって、さっきの悪霊の剣じゃなかったっけ? ねえ、ウォドセフー」

「分かんないよ。同じような剣かも」


 ウォドセフは同じ剣だと分かっていながらも、それを認めたくなかった。認めてしまえば、エレーネに馬鹿にされることは分かり切っているからだ。


「そーかなー」

「そーだよ。そう。あ、そうだ、今度はあんたが先に行ってよ。ここまでは俺が道を選んできたんだからさ」


 ウォドセフは自分でうまい言い回しだと思った。これなら、自分が道を間違えたことを認めず、エレーネに道を教えてもらえる。口ぶりからしてエレーネは道を知ってそうだったし、何より魔法も使えるようだ。


 エレーネはそれを聞いてじーっとウォドセフを見つめた。


「な、なんだよ。嫌ならいいぞ」

「なんでも。ついてくるなって言ってたくせにね。まあ、いいわ、行きましょう。ほら、手をつないで」


 エレーネが手を出してきた。ウォドセフは飽き飽きして、手をはたいてやろうとすると、反対にエレーネに手首を掴まれた。


「おい、離せよ。一人で歩けるっての」


 抵抗するウォドセフをよそに、エレーネは目を閉じて、まるで何かを探すように顔をあちこち向けた。ウォドセフは少し不安になり、抵抗をやめる。


「エレーネ?」

「よしっ、見つけた」

「見つけた? 何を?」

「道だよ。言ったろ、私は案内人みたいなもんだって」


 エレーネはまた自信満々に笑ったが、ウォドセフには謎が深まるばかりだった。

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