電脳世界最強のデスゲーマーが現代ダンジョンにログインしました〜デスゲームの次は異能あふれるダンジョン学園ライフが攻略目標なようですよ?〜

七篠樫宮

第一章 デスゲーマーが“非日常”にログインしました

001 日常の“エンドロール”

 突然だが、人は誰しも心の奥底で非日常ファンタジーを求めていると思う。

 それは迷宮ダンジョン、異能、怪物モンスターといった、一昔前なら空想上の存在ファンタジーだと切り捨てられていたモノが現実となった現代でも変わらない。


 翼を広げ空高く飛ぶ鳥たちのように、この身一つで蒼天を舞って風をまといたい。

 迷宮に住まう強大な怪物の前に、頼りになる仲間たちを連れて勇者の如く立ち向かいたい。

 かつては本の中にしか存在しなかった、色鮮やかな魔法の数々を振るいたい。


 ――つまり何が言いたいのか……って?


「ヒャッフォォオオッ! 見よ、推定当選確率三桁倍っ、コレが俺の天運だ!」


 そんな選ばれし者しか体験できない“憧れ”ファンタジーに触れられるチケットを、である自分が手に入れたのだ。


「『EDEN・LINK・ONLIN』――世界初の完全体感フルダイブ型VRゲーム、その初期ロットォッ! ハハハ、俺が人生の勝者だ……く、くく、フハハハハ――」


 だからまあ、くらい喜んでもバチは当たらないに違いない。

 例えその日から一週間、近所のおばさま方に『不気味な笑みを四六時中浮かべているイカれた中学生』という“噂”の当事者としてジロジロ見られる事になったとしても。

 さらに加えて、その“噂話”を耳にした担任から生徒指導室に呼び出される未来が待ち受けていると知っていたとしても。

 ――この歓喜の感情を表現する為に、高笑いを上げながら部屋で喜びの舞を踊るのをやめはしなかっただろう。

 


 ソレ――VRゲームの参加権が届いたのが、中学二年三学期の終業式一週間前。

 


「ゲーム開始は春休み初日、つまり学生特権であるスタートダッシュが可能! むふふ、ビルドはどうすっかなぁ〜魔法使いになるか、剣士にするか、サムライとかも捨てがたい!」

 


 コレこそが春休みを目前とした俺、茜谷アカネヤセイジの送る日常であり――


 

「あぁ、楽しみだ。無能力者オレが夢にまで見たファンタジーの具現。待ち遠しいぜ」

 

 

 ――その“日常”の終わりの始まりであった。







 

*――*――*


 始まりは約百年前、世界各地にて『UMA』が現れたという報告が広まった。

 ――北欧の雪山に“雪男イエティ”が。

 ――南米の片隅に“胴太蛇ツチノコ”が。

 ――中東の砂漠に“高速生物スカイフィッシュ”が。

 伝承や都市伝説の地域とは何の関係もなく、無作為かつ広範囲で上がる新種の発見報告。


 人々は未確認の存在に湧き上がっていた。

 学者は新たな生物達の生態調査に乗り出そうとし、富豪が未確認生物という未知に興味津々となり、多くの野次馬が現物を一目見ようと探索に乗り出そうとした。

 ソレらの生物が見つかった現地では、『UMA』をダシにして外国の観光客を呼び込もうとする住民もいたのだとか。


 ――だが、“未知UMA”の発見に対する熱はすぐに冷める事になる。


 山から降りて来た“巨猿獣ビッグフット”が人をひねり潰して喰らった。

 洞窟から出て来た“醜小妖精ゴブリン”が群れで人を分解した。

 人の手の届かない空からやって来た“飛竜ドラゴン”が息吹ブレスで人を焼き払った。


 発見されたのは有名な未確認生物UMAだけじゃなかった。

 ドラゴンやゴブリンといった伝説上の空想生物が現れ、人々を襲い始める。

 

 ここに来てようやく世界は“勘違い”に気が付いた。


『これは、新種が見つかったという“朗報”じゃない。

 ――万物の霊長である、人類種に対する敵対種の誕生という“悲報”なのだ』


 ソレらの敵対生物――怪物種モンスターに当時の人々の武装は歯が立たず、人類の生存領域のほとんどが失われるのも時間の問題だとされた。


 これまで星に軌跡を刻んできた人類の敗北が迫る。

 自然災害でも、疫病でも、自身の技術による自滅でもなく、突如として出現した怪物による蹂躙劇ジェノサイド

 

 世界の中には怪物達を地表諸共吹き飛ばそうする、全生命道連れの最終計画を立案する国すら出て来た頃――彼等は現れた。

 

『超常』を操る者達――後に『異能者』と呼ばれる彼等は、当時の武装では太刀打ち不可能であった怪物種モンスターを、その“異能”で次々と撃破していった。

 

 彼等曰く、異能者と呼ばれる人々は古くから存在しており、歴史の影で密かな繁栄を享受きょうじゅしていたのだとか。


 異能者の活躍により世界に広まった怪物種モンスターの九割が殲滅せんめつされ、同時に怪物種というこれまで誰も知らなかった存在達の棲家すみかが明らかになる。


 ――『迷宮ダンジョン』。

 

 世界各地に人知れず出現した異界。

 怪物達の母胎マザー

 地球上に存在しない未知の物質が採取できる、現代最新の黄金鉱山。



 

 ――それから時間は進んで現代。

 

 迷宮ダンジョン、異能、怪物種モンスター……『超常ファンタジー』の秘匿ひとくが解放された世界で、“未知”を“既知”の体系に組み込んだ人類は新たなステージに立っていた。


 発明された新技術は数知れず、『統一言語』や『天空都市』――果てはSFの代名詞でもあった“微細機械ナノマシン”まで。


 そして今日新たに、そんな超常の新技術たちに並ぶ発明品が世に放出される。

 

 

《これより【WORLD QUEST:EDEN・LINK・ONLIN】を全プレイヤーに発行します》



 世界初のVRゲーム『EDEN・LINK・ONLIN』の開発。


 

《達成条件は【ダンジョン最下層――100層フロアボスの討伐】です》

 

 

 ソレは時代の流れによって生み出された、人類の空想ファンタジーが現実に追い付いた証となる偉業として、新たに歴史に刻まれる――――



《特殊条件は【プレイヤー死亡時、現実世界の肉体へのデスペナルティ適応】です》


 

 ――人類史最大規模の“大犯罪”。



 空想が現実に、“非日常ファンタジー”が“日常”に。

 迷宮ダンジョンや異能、かつての人々が夢想した“憧れファンタジー”が現実になるのなら――誰かが描いた“デスゲームファンタジー”もまた、具現化されるのも道理。


 

 その日、人類最先端の技術を体感しようとした約3万人の人々プレイヤーは、命を賭けた望まぬ戦いに引きり落とされた。

 


 これより始まるのは、一人の少年がデスゲームに囚われた人々を解放する英雄になるまでの物語――ではない。


 

CONGRATULASIONおめでとうございます

 

《【WORLD QUEST:EDEN・LINK・ONLIN】が 【PN:セージ】によりクリアされました》



 ――少年が『英雄ヒーロー』に成り果てた、その先の物語である。


 

 

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