2 圧倒的戦力差の戦い

「敵の魔導機兵、進路を変えました! クルパシカ通りです! こっちに来ます!」


 魔導機兵と装甲歩兵が一対一では戦いにもならない。

 それくらいの戦力差がある。


 ただそれは足場が良くて、なおかつ広い空間の場合だ。

 市街地のような身動きの取りづらい環境で一対二であれば、後者にも可能性が生まれる。


「どっちがだ!?」


 伝声管の向こうから声が響く。

 メリンダは敵の魔導機兵の位置と速度をしっかりと捉えた。


「こっちが先です!」


「緑だ!」


 メリンダは手にした信号拳銃に緑の発煙弾を装填して真上に撃った。緑色の煙が真っ直ぐに青空に伸びていく。


「緑を撃ちました!」


 そう叫んでメリンダは信号拳銃を腰に、背中の狙撃銃を引き抜いてボルトを引いて薬室に弾丸を押し込んだ。スコープは外した。


 メリンダの乗る装甲歩兵が街路を曲がった。

 アーチバル通りからクルパシカ通りへ。


 二百五十フィネル注4ほど先に敵の魔導機兵がいる。

 足を止めて、その手にした銃がすでにこちらに向いている。


 現代戦としてはかなりの至近距離だったが、メリンダの魔法の射程圏内というほどではない。

 メリンダは魔導機兵の足下に注意を向ける。


 いる。随伴歩兵だ。


 肩章から小隊長を一瞬で見分け、メリンダはその胴体の中心を狙って引き金を引いた。


 同時に敵の魔導機兵も手にした銃を撃った。

 巨大な魔導機兵の持つ銃は、銃と言うより砲だ。

 砲弾というべき大きさの銃弾が装甲歩兵の盾に当たり、その装甲を大きく曲げた。衝撃で装甲歩兵は大きく揺れる。

 装甲歩兵は二歩後退してバランスを取り戻した。


 メリンダは手すりに掴まり、なんとか振り落とされずに済んだ。


 反撃とばかりに装甲歩兵の砲も火を噴いた。

 だが魔導機兵が銃を手にしているのとは違い、装甲歩兵に装備されているのは固定砲台だ。

 口径は同じくらいだが、狙いの付けやすさがあまりにも違う。


 装甲歩兵の放った砲弾は魔導機兵の右にある建物に突き刺さった。

 瓦礫が舞う。狙いを付けるのが甘かったのだ。

 もう少し時間をかけるべきだった。


 メリンダは努めてそのことを考えまいとした。

 魔導機兵と装甲歩兵がお互いの射程に入ったら、もう偵察兵にできることは露払い程度だ。

 魔導機兵と装甲歩兵が火砲を向け合う一方で、地上では随伴歩兵同士の撃ち合いが始まっている。

 カルデスタンの魔導機兵は装甲歩兵のように頭上に偵察兵を乗せるようなことはしないので、メリンダの位置は比較的安全だと言える。

 一方的に地上の兵士を狙い撃てる。


 装甲歩兵はその場に膝を突いた。

 これ以上は一歩も後退しないという構えだ。

 前進もできないが、この場に壁を作ることができれば目的の半分は達したと言える。


 魔導機兵が次弾の装填を終え、その銃口を装甲歩兵に向ける。

 敵の狙いは正確だった。

 装甲歩兵の盾に命中し、歪みはさらに大きくなる。


 装甲歩兵の装甲が厚いのは正面の盾だけだ。

 後の部分はその巨体を支えるに足りるだけの強度しかない。

 盾を抜かれたら装甲歩兵は終わりだ。


 魔導機兵と装甲歩兵の戦力差は大きい。

 あまりにも大きい。




注4 距離の単位。1フィネルは元々は1歩という意味で、現代では厳密に規格化されているが、この当時はまだ曖昧だった。

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オルクバール亜人戦争史 ~転機となったイスラルタ陥落について~ 二上たいら @kelpie

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