第6話


 「医学は日いちにちと進歩しとるんじゃのぉ」

 じいちゃんが、白くそろえているアゴの髭を撫でて感心するくらい、僕の火傷は回復した。学校に行ってから少しは自慢できるくらい跡がのこってくれればカッコいいのに…なんて思ってたけど、そんな僕の期待すら裏切られるほど。

 腫れ上がっていた瞼も、皮がべろべろんになった頬も、見えなかったけど、ずっとヒリヒリしていた喉や鼻の奥も。あの爆発が夢だったみたいに治った。

 それで、傷跡はなかったけど、学校に復帰した初日は、ちょっとしたヒーローだった。一太郎(赤い野球帽のクラスメートだ)が、あることないこと言ってたらしい。ちょっと前までは、いじめられっこの転校生だったのに。当のいじめっ子だった一太郎が、僕の前世からの親友のようについてまわるから参っちゃったけど、悪い気はしなかった。

「お前のばあちゃんのたまご焼き、」一太郎は給食時間(給食でない、お弁当

の日も、昼食時間のことを学校では給食時間って言う。日本語っておもしろい。)も僕のそばにいて、弁当箱をのぞきこんでいた。「美味いんだよなぁ」

 僕があの爆発事故で吹っ飛ばされて意識がなかった2週間、一太郎は毎日僕を見舞ってくれてたらしい。目が覚めてからも、一太郎は毎日顔をだしてくれて、いいかげん寝てばかりいることにうんざりしてきた僕の気持ちを紛らわしてくれた。

 一太郎は、見舞いにくるだけでなく、見舞いにきてくれたら、必ず晩御飯を我が家で食べて帰っていった。見舞いにくるついでに晩御飯なのじゃなくて、晩御飯のついでに見舞いに来てくれてるんじゃないかと思うほど。

 「ほい」

僕は、箸を上手に使って、弁当箱の中のたまご焼きを、一太郎のご飯の上に乗せてやった。一太郎はばあちゃんの料理のファンなんだ。僕も、ばあちゃんのたまご焼きは大好物だけど、一太郎になら分けてやってもいい。一つだけだけどさ。

「サ~ンキュ」

 一太郎は、ニカッと笑って、右手でたまご焼きをつかむと、素早く口にほおりこんだ。そして幸せそうに目を閉じて、もぐもぐしてから、もったいなさそうにごっくんと飲み込む。最後に目を開けて、もう一回ニカッと笑う。「うめ~!」

僕はあわてて、弁当箱のたまご焼きを口に入れた。「一つだけだ」

「…わかっとるよ」

 ちょっと、残念そうにスネて言う一太郎。だまされるもんか。

 一太郎は牛乳パックを手にとると、ストローでチューと吸った。チラリと上目遣いで僕をみる。

 ちぇ。

 「たまご焼きは駄目」僕は里芋をつまむと一太郎の飯の上に置く。

 「いただきます!」

 どうして、逆らえないんだろ?

 わかってる。

 こいつとは、ずっと友達になる。

きっと、僕は、こいつに会うためにミヨシに来たんだ。


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