第4話
「お前、走るん、早すぎ、る、で!」
赤い野球帽が、息を切らせながら追いかけてくる。
空がますます赤く染まり、彼にかまってる気持ちじゃない。「何でついてくる!」
「何…って」理由は特にないのだが。「待てぇやぁ、トーキョー」
「僕の名前はトーキョーじゃない!」
風がますます強くなる。
走ってるからだけじゃない。
ぷぉ~ン!
列車が発車する音が聞こえる。じいちゃんが乗って帰ってきた列車だ。こんな田舎でも、エネルギーのは使用目的が制限され、線路の上を走るのは、「先の」戦前の遺物。
駅の正面から、通勤帰りの人がぞろぞろ出てくる。
「じいちゃん!」
その人込みの中に、森之介は祖父の姿を見つけた。彼の7倍近く歳をとっているのを感じさせないきびきびとした足取りで歩いている。もっとも、顔のシワは、彼が人生のベテランであることを隠しきれていないが。
「おー、森之介」祖父は、駆け寄ってくる孫を直ちに見つけ、その目も耳も衰えていないことを証明した。「どうした…?」
森之介は、自分の身体がビデオのスロー再生になったような錯覚におちいった。
そして、そのとき…!
爆発音は天から降ってきたのだが、森之介の耳には足元から沸き上がって聞こえていた。地面が盛り上がり火を吹くのが見えた。
うわぁっ…。
悲鳴にならない声が喉をつく。
火柱が自分に向かって突き進んでくる。
僕はここで焼かれるんだろうか…。
トーキョーのテロを生き抜いたのに?ミヨシがこんなに危険な場所だったとは聞いていなかった。日本で一番安全な街だと記録されていた。優秀な警官が多い街だと…。
熱風が鼻の奥をこがす。
このまま消えていくのか…。
父さんに会えるかもしれないと思うと、それも悪くない考えに思えた。
と、「本当にそう思うのか?」耳元で声がした。
え?
身体がふわりと持ち上げられる。
「せめて、この爆発の原因くらい知りたいとは思わないのか、少年?」
いつの間にか閉じていた目を開く。
無抵抗な細い少年の身体に、半サイボーグ化されたゴツい腕が回されていた。
あわてて顔を右に見上げると、そこに男の顔があった。
キリリと上向きの濃い眉には見覚えがあった。意志の強固さを物語るような大きな眼も。うっすらと顔を覆う無精ヒゲすらも。
「しっかり、つかまってろ」
ボソリと呟かれた声も聞き覚えがあった。…しかし、どこで?
考える間もなく、身体がぐっと締めつけられ、熱風がむき出しの腕と頬を焦がしていくのを感じた。
そして、どさっと投げだされるように冷たい地面に降ろされたのを。
「大丈夫?」そして、天使の声が降ってきた。
「森之介ぇ!」遠くでじいちゃんの声もした。
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