第7話 ダンジョンへ行ってみよう!

 フェアリーテイル女学院からほどほどの距離にあるレベル2ダンジョン。

 フェアリーテイル女学院の側にもレベル1からレベル5までのダンジョンが揃っているが、レベル2やレベル3のダンジョンは攻略難易度的に人気のあるレベル帯だ。 その為、タヅナがアヤカと出会った様な辺境のレベル1ダンジョンとは違って他の探索者シーカーと出くわす事も良くあったりする。

 未だ自分の実力に疑問を持つタヅナとしては無様な姿を他の人に見られたく無いという自尊心で少し離れた人気の無いダンジョンまで来ていた。


「えっーと……何なに……ここのレベル2ダンジョンは雑魚はゴブリンのみで、ボスがホブゴブリンね。 ホブゴブリンは力が強いから気をつけましょうって……たったそれだけかよ!?」


 ダンジョンの前でスマホを操作して攻略情報を見るも、大した情報は載っていなかった。

 ゴブリンやホブゴブリン程度なら攻略情報など必要ないという事だろうか? しかしレベル1ダンジョンしか知らないタヅナにとっては少しでも情報が欲しい所であった。


「ま、まぁ無理そうなら直ぐに逃げよう……」


 タヅナは生唾を飲み込むと、洞窟のような入り口へと入って行く。

 入り口の見た目はダンジョン内部の造りをある程度予測出来るようになっていて、この様に洞窟の入り口っぽい見た目ならば中も洞窟タイプのダンジョンだったりする。


 入り口には次元が歪んだような膜があり、そこを通り抜ければ独特の感覚とともに薄暗い洞窟の内部へと移動する。

 例え入り口が道の真ん中に発生しようと、家の中に発生しようと中は別空間のように広がっている。 これがダンジョンの拡張領域だ。


 タヅナは薄暗い洞窟を慎重に進んでいくと、緑色をした小さめの人型が見えてくる。

 3匹ほどが粗末な腰蓑を身につけ錆びついた刃物を持っている。

 ギャッギャッと話しているのか鳴き声なのか判別のつかない声を発しているソレは、ファンタジーでお馴染みのゴブリンである。

 タヅナはゲームやファンタジー映画等でよく見ていたゴブリンの姿に軽く感動すら覚える。


「いきなり3匹か……どうしようかな」


 タヅナは動きやすいホットパンツにパーカー、長い髪を1つに結び無地のキャップを被っている。

 武器としてはアンカーガンとアヤカに持たされたバール・・・である。

 何故バールかと言うと、刀剣類のようにメンテナンスが不要で鈍器として使え、L字の釘抜き部分は対象に突き刺す事も出来る。

 オマケにL字に曲がっている為、対象絡めたり縛り上げた糸を捻りあげる事で高強度の糸をどんどん食い込ませる事も出来る。

 初めてアヤカからその使い方を聞いた時によくそんな残忍な使い方を考えるなと身震いしていた。

 そして、これが重要なのだがダンジョンに出没するモンスターには能力で具象化した武器でなければたいしたダメージを与える事が出来ない。 これは魔力の通っていない攻撃が通り辛いからである。 なので本来なら能力で作られた武器以外は剣だろうと銃だろうとほとんど無効なのだが、このバールはダンジョン産の希少金属で作られているために使用者の魔力を通しやすくモンスターにも効果的に攻撃する事が出来るのである。


「よし、やってみるか!」


 意を決したタヅナはゴブリンとの間の通路の岩肌にアンカーガンを打ち込んで糸によって罠を張る。 地面近くに糸を張り引っ掛けさせる為のものだ。 そしてわざとゴブリンに見つかる様に姿を見せると、案の定タヅナをみつけたゴブリンがギャッギャッっと声を上げて突撃してくる。 知能が足りてないのか3匹が一緒になって走ってくる。 罠の位置まで来ると3匹共が盛大につまずき転げて行った。


 それを確認すると、タヅナはバールを振り下ろしゴブリンの頭を打ち砕いて行く。


「うへぇ……なんか感触がキモチワルイ!!」


 ダンジョンを攻略する探索者達は最初の講習でも教官や教師に口を酸っぱくして言われるのが、「モンスターが人型だからって躊躇するな」という事である。 ネットの掲示板でも、同じように「人型のモンスターに躊躇して逆にやられた」という話がよく話題になっている。


 散々脳内シミュレーションしていたタヅナだったが実際にバールを振り下ろしてみると手に伝わるリアルな感触にゾッとした。 せめてもの救いは倒したモンスターはすぐに消えて無くなる事だろう。 いつまでも残る死体よりは、精神的な負担も少なく済むはずだ。


 問題なく3匹をそれぞれバールの一撃で倒したタヅナはふっーっと大きく息を吐く。

 レベルの高いダンジョンに出るモンスターなんかは死体が残らない代わりに魔石が残されたりする。 ダンジョン内部にある採掘ポイントで採れる魔晶石とは異なり、モンスターの強さに応じて魔力が内包された魔石は、自分の魔力を込めることでその力を吸収でき魔力を増やせるため、個人で使用したり、高額で取引されたりする。 しかし、ゴブリン程度では魔石は残らないため、タヅナはバールでアンカーを外すと罠に使った糸を消した。


「まぁ、なんとか行けそうだな……」


 僅かに手に残る感触に少し震えが出るが、気持ちを切り替えて先へと進んでいく。



◾️


 その後、散発的にエンカウントするゴブリン達を危なげなくバールで潰して行くと、モンスターといえど命を奪う嫌悪感も段々と薄れてくる。


 暫く進むと今まで見なかった扉がある部屋を発見する。

 攻略情報によれば扉の先はボスがいる事が殆どだそうだ。

 

 ゴブリンを多数倒して、余裕の出てきたタヅナは扉を押し開いて中に入ると、広めの部屋の中1人の少女がモンスターと戦っているようだった。


(あっ! やばっ、他の人いたのか……)


 先にボスなどモンスターと戦っている人がいる場合、助けを求められたり危機的状況ではない場合は戦闘に関与しないのがマナーである。


 先に戦っている人が終わるまで部屋の外で待っていようかと踵を返そうとした時、ふと違和感を覚える。


 少女が戦っているモンスターは一見してライオンの様な姿だった。


(あれ? ボスってホブゴブリンじゃなかったっけ?)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る